「メキシコ国境に壁」はどれだけ現実的なのか 2兆3000億円の壁は米経済を疲弊させる
メキシコ国民に対し、ビザや国境通過の許可証を取得するための費用を引き上げる案もある。しかし、壁の建設費用に充てるには相当な件数が必要だろう。それ以上に、ビザの申請費は法令によって世界各地での領事活動の資金に充てられている。
トランプはメキシコからカネを引き出す他の方法も思いつくかもしれない。米国に居住するメキシコ出身者は1200万人おり、メキシコ企業は米国に200億ドル(約2兆3000億円)近くの投資をしている。両国の間では莫大な金額が動いているのだ。問題は、トランプが法を破らずに目的を達成できるかだ。
カリフォルニア大学サンディエゴ校のゴードン・ハンソンは、両国が所得税に関する租税条約を締結している点を指摘する。米政府はメキシコ出身の居住者に対して所得税の減税を認めているのだ。
「トランプはこの条約に違反すれば、米国に暮らすメキシコ出身者の税率を上げ、その分を財源にできるだろう」
メキシコに侮辱を与えているだけ
おそらく上記の案はどれも考慮すべき問題ではないだろう。トランプはメキシコに壁の建設費を負担させるのは簡単ではないと理解している。彼はどんな方法でも、とりあえず主張するだけなのかもしれない。外交問題評議会のエドワード・オールデンが指摘しているように、トランプは実際のところ、メキシコに壁の建設費を払わせるための優れた案を探しているのではなく、強さを誇示し、メキシコに屈辱を与えているだけなのかもしれない。
「トランプはイメージを重視している」とオールデンは言う。「賢明な案など求めていない」
メキシコへの経済援助を削減することは、トランプの目的達成に役立つかもしれない。でもそれも結局、墓穴を掘ることになるだろう。メキシコが米政府から得ているわずかな援助の大半は、エルサルバドルやグアテマラ、ホンジュラスからの移民がメキシコを経由して米国に流れるのを阻止するための資金に充てられているのだ。
しかし、それももはや問題ではないかもしれない。トランプの対メキシコ関係をめぐるこの騒動が収まったときには、メキシコは米国に手を貸さなくなるだろう。米国は不法移民の入国を抑止する最も有効な手段を失うのだ。そうなれば、トランプの壁が役に立つかもしれないが。
(執筆:Eduardo Porter記者、翻訳:中丸碧)
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