東大卒のエリートが「専業主夫」を選んだ理由 妻を支えるため会社を辞めた男に後悔はない
香苗さんは育休を取ろうとしたものの、自らの立場は契約社員ならぬ契約研究員。通常の育休制度が適用されず、休暇がほとんど取れないという事実に直面する。やむをえず退職を考えた香苗さんだったが、自身が行う最先端医療の研究を病の早期発見・治療に役立てたいという夢があったため、踏ん切りがつけられない。
そんな悩める妻に夫・泰三さんは「自分が2年の育休を取る」と提案した。泰三さんの勤める一流企業には育休制度があったのだ。もちろん、制度があったとはいえ、育休を使った男性社員は当時、1人もいない。風当たりは相当のものだった。しかも、働き盛りの30代が職場を2年も離れれば、積み上げてきたもののすべてを失うといっても過言ではない。
しかし、泰三さんはこう考えていた。
「出世とかはそんなに気にしてなくて、妻がどれだけ仕事が好きかっていうのはわかっていたので。仕事を妻が辞めるのか、こちらが休むのかのてんびんですから、比べたらこちらが休みをとるほうがよかったということです」
こうして東大卒夫は2年の育休を取った。その後、妻の香苗さんはますます研究に没頭し、1年後にはその業績が認められ、1年間のアメリカ勤務が決定する。育休中の泰三さんも一緒に渡米し、妻を支えた。そして妻の任期も終わり、帰国をしようとした、そのときだった。
なんと、妻の研究が想像以上に高く評価され、2年間のアメリカ勤務延長が決まったのだ。一方、このタイミングで、夫の育休は終了。妻はアメリカで働きながら子供を育て、夫は1人、日本に帰国し、会社に復帰することとなった。家族バラバラの生活が続く中で、東大卒夫は思った。
「寂しさとつらさしかなかったんですね。妻のほうも多分、つらかったんじゃないですかね。家族がバラバラでいるくらいだったら、会社を辞めてもいいから一緒に暮らしたほうがいいんじゃないかっていう感じですね」
こうして夫は会社を辞めることを決意。東大卒夫は、専業主夫となった。
東大卒の専業主夫はつらい!? それとも楽しい!?
エリート街道を自ら捨てた専業主夫。そんな泰三さんの生活をのぞいてみた。「男性に家事が、うまくこなせているのか?」と思う読者も少なくないかもしれない。ところが、泰三さんの料理の腕前は、専業主婦も顔負けの見事な手さばき。実は家事の中でも料理が特に好きだという。
その理由は「洗濯や掃除など、家事の多くはマイナスをゼロに戻す作業だが、料理はプラスを生み出す、クリエーティブな作業だ」(泰三さん)というのだ。もともと東大工学部で磨いたモノづくりの精神が、料理に生きているという。
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