高級レストラン・ひらまつが、中価格帯店「ミュゼ」でも成功した理由

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 両者の共通認識は、値段は下げても料理の質は落とさないこと。「よい食材でなければよい料理は生まれない」はボキューズ氏の言葉だが、ここでのよい食材は高い食材とイコールではない。「たとえば牛のほほ肉や子羊のスネ肉はそれほど高くないが、うまく料理すればとてもおいしくなる」と平松氏は言う。

東京港区の国立新美術館内への出店の際には、実に40店と競合した。美術館側は多くの人を呼ぶためにも、敷居が高すぎるレストランの誘致には消極的だった。そこに、「高級フレンチの味をリーズナブルな値段で」というコンセプトがうまく合致し、出店を勝ち取った。

こうして「ミュゼ」では味の質は保ちつつ、フランス料理特有の飾りつけはできるだけ簡素化。また、煮込み料理など事前に仕込んでおける料理をメニューに入れることで、調理時間を短縮している。

厨房では約10人のスタッフで数時間に350~500食を調理する。その内部は、さながらベルトコンベヤーが動く工場のようだ。肉料理では焼き担当、ソース担当などチームになって調理を行い、秒単位で呼吸を合わせる。一人が遅れれば全体が狂ってくるため、厨房では「おーい、あと15秒で焼き上がるぞ」といった声が飛び交う。

円状になっているフロアでは、各スタッフが持ち分のエリアを持って責任を負う。エリアを限定して死角をなくし、客の要望に素早く対応するためだ。さらに全体の様子を見回る店長が一方向に周回し、無駄な動きを極力排除している。

テーブルクロスにも工夫がある。ひらまつの他の高価格帯店では2枚重ねにしているが、「ミュゼ」ではいちばん上のクロスを紙タイプにした。取り替えにも手間がかからず、クリーニング代も安く済む。こうしたさまざまな工夫の結果、ミュゼの店舗利益率は高価格帯を上回るという。

同店の成功をきっかけに、ひらまつは「ブラッスリー」業態を銀座と大丸東京店に出店、現在では3店を展開する。ひらまつの前期(07年9月期)の営業利益は前年比22%減の3億円に沈んだが、今期はすでに中間期で5億円の営業利益を達成した。ブラッスリー業態の好調が、ひらまつ全社の業績を押し上げる要因となっている。

さらにひらまつは、今後ワインにおいても価格破壊を仕掛ける。日本におけるフランス料理変革の芽は、これから大きく育つ可能性を秘めている。
(週刊東洋経済編集部)

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