世界同時不動産ブームに漂う「危険な空気」 リスクは米国の利上げだけじゃない

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しかも、金利引き下げという金融面の支援はもはや期待できそうにない。副作用の大きいマイナス金利の深掘りは現実的ではないし、住宅ローンの最優遇金利は、10年固定で0.5%と、過去最低だった年初からやや上昇している。高額物件の価格は、高額所得者の賞与が急増するとか、現在の80歳・50年程度の最長返済期限を90歳超に延ばすような超長期ローンでも登場しない限り、よくて頭打ちで、下落のリスクもあるだろう。

日米欧の不動産関連貸出残高は、サブプライム問題前の2007年末以降、150兆円以上増加したとみられる。不動産価格がこのような金融拡大の恩恵を色濃く受けてきた以上、金融環境が反転したら、価格の反転も避けられないだろう。

各国で不動産購入を抑制する税制改正の動き

問題はそのスピードだ。金利上昇に加え、日本のタワマン税制を含め、いくつかの国で、不動産市場に対する税制の見直しが始まっている。

例えば、バンクーバーでは、昨年8月から、外国人が不動産を購入する際は、売買価格に対して15%もの追加税を課されることになった。この結果、不動産売買高は外国人を中心に激減し、12月の売買高は前年から40%も減少した。

アメリカでも、トランプ新大統領が不動産の減価償却を抜本的に見直すと報じられている。さらに、不動産業には限らないが、企業が借入金利を課税所得から控除できなくなると報じられている。これが現実化すると、レバレッジを効かせて不動産を購入することが税制上不利になる。

海外の不動産価格が急落した場合、日本への影響はどうか。不動産市場の問題はかつては比較的国内限定の問題にすぎなかった。しかし、今や各国の緩和マネーが値上がり益を求めて世界中を跋扈している。証券化商品もサブプライム問題後の縮小から息を吹き返している。欧米の不動産市場のバブル崩壊は、これまで日本に流れ込んでいた海外の投資資金のマインドを冷やし、国内の高額物件の価格下落に拍車をかけるだろう。

日本の1990年代にも見られたように、金融引き締めにこうした税制改正が重なると、市場を急速に冷やしすぎないかが懸念される。過去の事例を学んでいる各国当局が、日本と同じ過ちを繰り返すとは思えないものの、当面はリスクを注視しておくに越したことはないだろう。

 

大槻 奈那 ピクテ・ジャパン シニア・フェロー、名古屋商科大学大学院 教授

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おおつき・なな / Nana Otsuki

東京大学文学部卒業。邦銀勤務の後、ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務に従事。2016年1月よりマネックス証券 執行役員。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授を兼務。共著で、『S&P 日本の金融業界』シリーズ(東洋経済新報社)、『リテール金融のイノベーション』(金融財政事情研究会)、『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)など。ロンドン証券取引所 アドバイザリーグループ・メンバー。政府委員を歴任。

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