70代男3人がハマった「廃カツ横流し」全内幕 「自分の目と鼻と口で判断して売った」

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しかし、なぜか木村の記憶はあいまいだ。「大西の産廃事業のことは詳しく聞いていない。カツをめぐるやり取りも具体的には覚えていない」という。その後、木村はせっせと横流しに加担、取引先には「ココイチのビーフカツが入る。規格外品だ。1枚50円でどうか」などと購入を持ちかけた。

木村がパンドラの箱の中身をのぞくのは、密談から1年近く後のことだった。

「どう見ても廃棄物」

2015年9月ごろ、木村は大西から直接商品を引き取るため、初めて稲沢市のダイコー本社工場に足を踏み入れた。錆びついた堆肥化プラントがそびえる工場内には、崩れたダンボールやビニール袋が散乱。夏場で臭いもかなりきつかった。大西はその工場奥の冷凍庫から、フォークリフトでカツの箱を運び出してきた。

崩れたダンボールやビニール袋が散乱するダイコー本社工場(写真:2016年1月19日に筆者撮影)

「そのとき初めて、これはどうみても廃棄物だと、間違いなく認識せざるを得なかった」。この光景は、木村の脳裏にまだ鮮明に焼き付いているらしい。

工場を後にした木村は、岡田の元に行き、まくし立てた。「ダイコーに取りに行ったが、びっくりした。あれは廃棄物じゃないか」

しかし、岡田は「廃棄物ではない」と否定し続けた。それ以上、木村は追及しなかった。大西に問いただすこともなく、そのまま粛々と取引は続く。こうして2016年1月の事件発覚まで、転売を繰り返されたビーフカツ約2万3000枚が100社以上の業者を通じて消費者に直接販売された。

「私も売り上げが欲しかった。一般的に廃棄食品を消費者が口にすれば、健康被害や、最悪では命の危険もあっただろう。しかし、当時そんなことは考えなかった。長年、食品業界に携わってきたのに、どんなものがどんな状態で流通したのかを確認する一番大事なところで手を抜いてしまった」。12月27日の被告人質問で、木村はうなだれて反省の弁を述べた。

冒頭にも触れたように大西は懲役3年、執行猶予4年、岡田は懲役2年6月、執行猶予3年の判決がすでに言い渡されている。木村に対しては2017年1月10日に論告求刑公判、判決はその先の予定だ。

2016年の年明け早々に連日、マスコミのトップニュースとして報じられたこの事件。ふたを開ければ、背後に組織的な広がりは見えてこない。しかし、齢70を過ぎた男たちがそろいもそろってハマり込んだ食品業界の甘い罠は、どこにでもあると考えざるを得ない。

ダイコー本社や無届け倉庫などに残された8900立方メートルほどの廃棄物は、年を越しても撤去作業が続く。

関口 威人 ジャーナリスト

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せきぐち たけと / Taketo Sekiguchi

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で環境、防災、科学技術などの諸問題を追い掛けるジャーナリスト。1973年横浜市生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

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