70代男3人がハマった「廃カツ横流し」全内幕 「自分の目と鼻と口で判断して売った」

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そんなきっかけで始まった横流しが2012年ごろ、一気にエスカレートする。きっかけは「福島のジャコ」。東京電力福島第一原発事故の影響で売れなくなっていた福島産品のうち、まとまった量のジャコが大西の元に届いたのだ。

そのころには阿吽の呼吸で、岡田が引き取ることになった。だが、岡田にとってとても1人でさばける量ではなかった。そこで知り合いのスーパー関係者を通して、ある業者を紹介してもらう。それが、今回の事件でいわば“第三の男”として詐欺罪で起訴された「ジャパン総研」(名古屋市)の木村正敏(76)だった。

木村は転職や起業を繰り返し、40年以上に渡り食品業界に携わってきた。いわゆる「食品ブローカー」という呼称を公判でも否定せず、個人名やジャパン総研以外の複数の会社名で取引をしていた。

そんな木村が「福島のジャコ」をあっさりと売りさばく。原発事故から1年後の当時、実際に放射性物質の基準値を上回っていたのか、ただの風評被害だったのかは、今では知るよしもない。この「きっかけは福島のジャコ」は事件発覚当初から既報の事実だが、裁判であらためて確認されると、筆者も実に複雑な気分になった。

こうして大西から岡田へ、岡田から木村へという横流しのルートが確立。そこに2013年末以降、壱番屋のカツ類が大量に流れ込むことになる。今回、大西に関しては製造過程で異物混入が疑われ、廃棄委託されたビーフカツ約5万9000枚を実際には廃棄せず、委託料約28万円をだまし取った罪が問われた。だが、公判ではその他にも「トンカツやメンチカツ、鶏の唐揚げ」(岡田)や「焼き鳥の串」(木村)などが次から次に横流しされていたと明かされた。

このころには大西が岡田から転売の代金を受け取っている。大西は「産廃事業は過当競争で、何とかしたかった。(転売が)事業資金になると思った」と供述。転売に関する領収書や帳簿は残さない一方で、産廃管理票(マニフェスト)は適正に処理したと偽造するなど、巧妙な手口での不正が始まった。

コメダでの密談

だが、大西が受け取るべき岡田の支払いが、徐々に滞る。大西は、岡田がさらに他の業者と取り引きしていることは気付いていたが、誰かは知らなかった。そこで2014年10月、愛知県内の喫茶店「コメダ珈琲店」で大西と岡田、そして木村が初めて顔をそろえた。大西は「岡田にきちんと代金が払われているか」を転売先の木村に確認したかったという。そこで木村は「きちんと払っている」と答えたため、大西は岡田に不信感を抱き、木村との直接取引に切り替えることを決めた。

このとき、大西は自身のことを「運送業と産廃をやっている」と木村に言う。そして、このビーフカツがプラスチック片などの混入した疑いで市場に出せない「ワケあり」商品だとも伝えたという。それに対し、木村は「入っていても何万分の一かの確率なので、たいしたことはないだろう」と主張。岡田も、木村が異物混入の可能性を聞いて「あ、そう」と気にとめていなかったとする。最終的に「バレないようにやってくれと指示した」(大西)というこの「コメダでの密談」が、事件に対する3人の認識が一致した場ではないかと公判でも重要視された。

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