「ISと結婚した女性」の写真が語っていること ヤズディ教徒が「悪魔崇拝者」にされた理由

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シンガル山から南へ25キロの場所にあるコーチョ村。アラブ人の村に囲まれた、この小さな村に暮らす住人たちは悲惨な運命を辿った。8月3日にコーチョ村を包囲したダーシュは、村人たちが逃げないようにそれぞれの自宅に監禁した。村人たちは、家から一歩も出ることを許されず、始終ダーシュの戦闘員が見張っていたという。

21歳のナディアが見た地獄

「8月15日になり、戦闘員から村の学校へ移動するようにと通達がありました。 きっとこの後は助かるんだと思っていたので、自宅からは一時的に必要なパンと水しか持って行きませんでした。学校には何百人もの村人たちが集まっていましたが、すぐに男性は1階に、女性や子どもたちは2階へ行くように命令されました。戦闘員たちはそこにいた700人ほどの村の男性たちからお金や携帯電話などを奪い、車に乗せて連れ去っていきました。私は学校の2階の窓から、連れ去られた男性たちが村の端の空き地に並べられて銃殺されるのを目撃したのです」

当時、21歳だったナディア(トップ画像参照)はこう振り返る。人口約1750人のコーチョ村で生き残った12歳以上の男性はごくわずか。難民キャンプでの取材中、コーチョ村出身の男性を見かけ声をかけると、今生きているのはダーシュが村を侵攻した日に、たまたま村の外にいたという男性や、処刑の現場で銃弾が当たったものの、命は助かり殺された友人たちの死体の間で息を潜めて死んだふりをしていたという男性たちだった。

スハン(仮名)。1991年コーチョ村生まれ。ダーシュに数ヶ月間監禁され、その間何度も鉄の棒で殴られ、電気ショックで痛めつけられるなどの暴行を受けた。ある日、監禁されていた家にあった睡眠薬を戦闘員の朝食に混ぜて眠らせ、脱出。クルド人自治区内の難民キャンプで暮らしている時に、顔の特定を防ぐためにヤズディ女性が頭を覆う伝統的なスカーフをカメラの前に垂らして撮影をした(写真:筆者)

村の若い女性たちはモスルなどに連行され、その後奴隷として戦闘員に分配され、強制的に「結婚」を強いられる者もいた。ナディアも、戦闘員によって性的な暴力を繰り返し受け、その後何とか脱出することができた。イラクでの取材当時、同じくISに拉致された母親の行方がまだ分かっておらず、特定を防ぐために顔の一部を隠す形で写真の撮影をした。

その後、ドイツに渡った彼女はヤズディ女性たちの被害を世界中で訴える活動を始めた。2016年9月には国連親善大使に就任し、12月には 、欧州議会によりサハロフ賞を受賞したことが国内外で大きく報道された。

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8月3日にシンガル山とその周辺の村々がイスラム国に攻撃されて以降、約5000人のヤズディの住人が犠牲になったと推定されている。ナディアのように 戦闘員に拉致され、人身売買や暴力の被害にあった女性の数は約6000人とされる。女性たちの救出活動を行う弁護士によると、これまでに脱出に成功した女性たちの数は、まだ2500人あまりだという(2016年10月現在)。

シンガル山がダーシュにより攻撃されて以降、ヤズディを取りまく状況は変化し続けている。

イラクの小さな村々で暮らして来たヤズディは、ドイツ、アメリカ、オランダなど世界中に分散した。一方で、今も故郷のシンガル山で過酷な避難生活を送り続けるヤズディもいる。先が見えない未来への不安を抱えつつも、 それぞれ民族のアイデンティティを強く抱きながら、新たな人生を歩んでいるのだ。

林 典子 フォトジャーナリスト

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はやし のりこ / Noriko Hayashi

国際関係学、紛争・平和構築学を専攻していた大学時代に西アフリカのガンビア共和国を訪れ、地元新聞社「The Point」紙で写真を撮り始める。以降、国内外の社会問題やジェンダー等に焦点を当て、写真と言葉でひとりひとりの生と記憶を伝える活動をしている。著書に『フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳─いま,この世界の片隅で』(岩波新書)、写真集『キルギスの誘拐結婚』(日経ナショナル ジオグラフィック社)がある。2012年DAYS 国際フォトジャーナリズム大賞、2013年フランス世界報道写真祭ビザ・プール・リマージュ「報道写真特集部門」Visa d’Or(金賞)、2014年NPPA全米報道写真家協会Best of Photojournalism「現代社会問題組写真部門」1位など受賞。英ロンドンのフォトエージェンシー「Panos Pictures」所属。HPはこちら
 

 

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