マンション「甘すぎ修繕計画」の恐ろしい末路 「一生賃貸」の方がマシなパターンがある

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未来への方針が不明確だと、物理的、機能的劣化を防ぐための適切な投資ができない。その結果、マンションから人はいなくなり、修繕に必要な資金も入ってこなくなる。その時点で管理組合として慌てて管理費や修繕積立金を引き上げようとしても、合意は難しい。また、負担増を嫌って、人はさらに流出していくことになってしまう。

こうした悪循環に突入してしまうと、修正することはほぼ不可能だ。なぜなら、資産の大半を住民からの管理費と修繕積立金に依存している上、営利を目的とする会社とは異なり外部から資本を調達することもできず、選択肢に柔軟性がないからである。

こうしたリスクがある以上、建て替えで行くのか、長寿命化という道をとるのか、早い段階での合意形成が重要だ。その判断を行うための前提となる情報も必要である。国土交通省も問題を認識しており、「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル」を作成。その中で、「最初のステップとして、当該マンションの老朽度を客観的に判定することが必要となります」としている。

しかし、築年数が経っているマンションでは、高齢者の住人の比率が高いことが問題を広げる。目先の資産価値が下落したり、建て替えの話につながったりすることを避けるため、老朽度判定で悪い評価を下されてそれが表沙汰になるのを嫌うのだ。

解体して土地を売っても利益が出ないケースも

「高齢者の方に問題を指摘しても、『もう自分は長くはないから、自分が死んだ後にやってもらう分には何をしてもいい』という話にすり替えられてしまうことが多い。しかし、戦略がなければ、どこかで行き詰まり、最後は大きな地震で壊れるか、スラム化する末路になる」(土屋氏)

「自分が死んだ後に」と言うが、そもそも人が亡くなるタイミングはバラバラであり、集団の意思決定が必要な場面であることが考慮されていない。また、権利者が死亡すれば、相続人が増えてより権利関係が複雑になるだけだ。不動産は社会的な資産であり、自分たちの個人的な都合だけで考えることは、本来筋違いのはず。どのようにすれば本質的な資産価値を維持し、後継の人たちに適切につなげるかという思考に変えていく必要があるはずだが、そうした問題意識すらないことがほとんどという状況だ。

何も手を打つことができなければ、理屈上、最終的には建物を解体して敷地を売却し、残った残余資金を区分所有の割合で分配することになる。しかし、こうなってしまうと、そもそも財産が残るかどうかも不明確だ。土屋氏によると、「都心で、小さな土地に背の高い大きなマンションが建っている場合、敷地を売却した費用だけで、建物の取り壊すと、ほとんどお金が残らないか、場合によっては足らないというケースもありえる」という。現金が残ればまだよいが、足りなければ持ち出しになってしまうというのだ。

実は、このシナリオすら机上の話。現実はさらにどうにもならない事態が起きる可能性が高い。大手不動産会社の法務担当者は「当初の所有者に相続が発生し、相続人が複数いることで共有関係などが複雑化している物件も多い。敷地売却に関する合意形成そのものも一筋縄ではいかないことは明らか」と指摘する。にっちもさっちもいかなくなれば、まったく流動性のないモノを抱えることになる。こうなると、住まいは賃貸を貫き、預貯金、株式、金地金などの金融資産で持っていた方が、結果としてはよかったということにもなりかねない。

まだ一部の都心タワーマンションなどを除き、こうしたリスクに思いを馳せ、意識高く将来の戦略を立てている管理組合は、ほとんど存在しない。しかし、過去と同じ失敗を繰り返さないためには、近年竣工されたばかりの新築マンションでも、早い段階から出口戦略を考えていく管理を行うことが重要になるだろう。
 

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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