優秀なあの人が「無能なリーダー」になる理由

諸葛孔明はなぜ「人材がいない」と嘆いたか

その原因を暗示するようなエピソードが、吉川英治『三国志』には描かれている。孔明がもうじき死んでしまうかもしれないという頃、孔明から敵将の司馬懿のもとに使者が送られた。司馬懿が使者に「孔明殿の働きぶりはどうじゃな?」と尋ねると、使者は「朝は早くに起きて夜遅くまで執務しておられます。どんな細かい仕事でも部下任せにせず、ご自身で処理します」と答えた。

私はこのやり取りに、蜀から人材がいなくなってしまった理由が分かったように感じた。部下に任せればよいような仕事も全部自分でやってしまうようになれば、部下は自分で考えることをやめてしまう。孔明の指示を待ち、それに従いさえすればよい、という「ひとごと」の姿勢になってしまう。孔明はささいなことにまで口を出して、部下が自分の頭で考えることがなくなるように仕向けてしまったのではないか。

泣いて馬謖を斬った結果に起こったこと

孔明が「指示待ち人間製造機」だった可能性を示唆するエピソードがもう一つある。「泣いて馬謖を斬る」というエピソードだ。馬謖は孔明が後継者として期待する超優秀な部下だった。馬謖にある場所を攻略させるに当たり、孔明は「陣地を山上に築いてはならない」と口を酸っぱくして指示した。

馬謖はなんとなく反発したくなったのか、指示とは逆に山上に陣地を築いてしまった。そのために敵軍に包囲され、水源地を敵に奪われて水が飲めなくなり、降参するしかなくなった。孔明は他の部下たちの手前、指示に従わずに大敗の原因を作った馬謖を、泣きながら斬るしかなかった。

この話も考えてみると、孔明が「指示待ち人間製造機」であったことを物語るエピソードだと言える。馬謖がもし優秀なら、山上の陣地は危ないということくらい自分で気づけたはず。なのに孔明はまるで馬謖の才能を信じていないかのごとく、出陣前から陣地のことを細かく指示していた。

馬謖が孔明の指示に逆らったのは、アマノジャクな気持ちが湧いたためだろう。「普段は私の才能を買ってくれているはずなのに、なんでこんな初歩的なことまで指示されなくちゃいけないんだろう? いっそ戦略を逆にしても勝てることを見せてやれ」とムキになった可能性がある。

自分の才能に自信があり、自発的に物事を考える人間ほど、事細かに指示されることが嫌いだ。自分の才能を見せつける場がほしいのに、指示を出されてしまっては、功績は優れた指示を出した人間のものになってしまうからだ。「ほら、俺の言ったとおりだったろう」と。

馬謖は「孔明の手の中」におさまることに反発を覚えるほど、自発性の高い人材だったのだろう。だからこそ指示とは逆のことをした。その結果、馬謖は斬られてしまった。馬謖が斬られた事件以後のことはマンガや小説の『三国志』には詳しく描かれていない。しかしこんな事件があったら、以後、孔明の部下はみんな孔明の指示に従って、自分の頭で考えることをしなくなってしまうだろう。

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