伊藤忠はこのまま三菱商事と伍していけるか 「野武士」が乱す総合商社の秩序

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

両社の社風や事業構成、成り立ちは180度異なる。財閥系商社を強烈に意識し、「商社2強」と内外で強く発信する伊藤忠の岡藤社長に対し、三菱商事の垣内威彦社長は「謙虚がモットー」が口癖。「特定の会社に比べてわれわれの業績がどうかという認識はまったくない」と語る。ただ、社長就任当初の今年5月、「今度商社1番に戻ったら、二度と1番から降りない」と話し、内なる闘志を見せたこともある。

伊藤忠は急速に台頭してきた(撮影:今井 康一)

繊維が祖業の伊藤忠は「非資源」一本槍なのに対し、財閥系の三菱商事はコンビニのローソンや自動車、船舶などのほかに、資源分野でも世界最大規模の豪州石炭鉱山やアジアで最大の持分生産量を誇るLNG(液化天然ガス)を抱え、事業基盤は分厚い。「目立つつもりはない。黒子のままでいい」(垣内社長)として、より強固な体制作りを静かに進めている。財務などの総合力で見ると、三菱が依然として伊藤忠をしのいでおり、商社新2強は、さながら「盟主」に斬りこもうとする「野武士」という構図だ。

トップの座は安泰でもない

利益首位に躍り出たことで勢いづく伊藤忠だが、商社トップの座が今後も定着するとも言い切れない。今年8月からの石炭価格の急騰で、豪州で石炭の大規模開発事業を手がける三菱商事の株価は急騰、11月に業績予想を上方修正している。2016年度の最終利益計画は、伊藤忠商事の3500億円に対し、三菱商事が3300億円と僅差だ。

時価総額で伊藤忠は3月下旬に三井物産を抜き2位になっていたが、今年7月に上陸した米国の空売りファンド、グラウカス・リサーチ・グループが、「過年度の決算に不正会計がある」とレポートで指摘(伊藤忠は全面否定)。伊藤忠の株価は下落し、足元では三井物産に再逆転を許すなど、むしろトップ三菱商事との差は開いている。

短期間での収益力や株価だけではない。伊藤忠は2015年に中国国有の複合企業に6000億円を投じ、三菱商事は来年初めにもローソンの子会社化に動くなど、将来を見据えた成長戦略は両社で大きく分かれている。今後、商社業界をリードしていくのは三菱商事か伊藤忠か。総合商社の新2強にとって実力を問われる重要な局面となっている。

秦 卓弥 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年から再び『週刊東洋経済』編集部。24年から8年振りの記者職に復帰、現在は自動車・重工業界を担当。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事