日本は、ついに「1人あたり」で韓国に抜かれる 生産性向上を阻む「昭和の思考」という呪縛

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生産性を上げる必要があると主張していると、必ずと言っていいほど「生産性を上げる必要などない」と反論されます。生産性を上げるためにガツガツ働いても、幸せにはなれないのではないかという意見です。

気持ちはよくわかりますが、やはり生産性は上げなくてはなりません。

社会保障を続けるなら、生産性向上は不可欠

まず、「GDP=人口×生産性」です。これから日本の人口は確実に減ります。人口が減りますので、生産性を上げないと、GDPは減ります。この簡単な理屈に、難しい経済理論は不要です。

「GDPが減ってもいいではないか」という反論も予想されます。同時に、「日本には日本の美徳がある。利益ではない、経済合理性ではない」などとも言われます。

ここで一番のポイントは、長寿と福祉です。皆さんの寿命が延びました。日本は、年金も介護も医療もとても充実しており、この支出は毎年増えています。これを支えているのは労働人口です。労働人口が減るなら、労働人口の生産性向上が求められます。これも極めて簡単な話です。

「日本人の職人魂」「細部までこだわる」「利益ではない」「生産性や合理性ではない」というスタンスは、戦後、人口が爆発的に伸びるという「恵まれた」時代だからこそ許されました。今も同様のことを言うのであれば、それは昭和という「人口激増時代の後遺症」であり、「妄言」と言うしかありません。

日本という先進国において人口が爆発的に増えれば、経済は成長します。モノが売れます。人が増えていれば、経営が下手でもなんとかなります。経営戦略などなくても利益が増え、株価が上がります。短期的に利益を重視しなくても、そのうち自然と利益が上がります。1円でも安く、大量に作りさえすれば、会社が栄えました。大した魅力のない観光地にも人がいっぱい来ます。人が増えているから、翌年はさらに来る。そうなると、魅力を磨く必要がなくなります。

人口激増時代は、福祉制度を運営するのも容易でした。高齢者を支える人は毎年増えるのですから、ひとりひとりの労働者の効率や生産性を考える必要はありませんでした。極論を言えば、労働者は生産性を気にすることなく働くことができました。やりたい放題が許されたのです。ある意味で、素晴らしい時代だったと言えるでしょう。

人口激増を背景に、生産性を気にしなくてもなんとかなるという「日本型資本主義」ができあがりました。アナリストとしては、これは人口激増時代だからこそ許された「甘え」であり、今も同様のことを言うのであれば、「妄想」と言わざるをえません。

今は、人口減少時代です。ひとりひとりの生産性を向上させる以外に、福祉制度を守っていく道はありません。長寿化に伴う福祉の支出を諦めるか、生産性を追わないという今までの「甘え」を諦めるか。私には、答えはハッキリしているように思います。

もちろん、生産性向上の恩恵は福祉の維持だけに留まりません。長年低迷している、皆さんの給料も上がります。国連の調査によると、日本は労働者の質が世界一高い国です。さらに世界的に見て、大変な長時間労働をされています。高い給料をもらわないよりは、もらったほうがいいのではないでしょうか。生産性向上は、そのための方策でもあるのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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