「ホーム転落事故」、鉄道側の責任範囲とは? 免責される具体的な基準はなし

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転落者等の確認が十分だったか否かが争点となった裁判例は、鉄道事業者のホーム上での監視義務の程度が争われた東京地裁1989年3月14日判決(判例タイムズ700号220頁)である。京王電鉄相模原線京王稲田堤駅で列車に駆け込み乗車を試みた当時8歳の女児が、閉まった扉に当たってホームと列車との隙間に落ち、動き始めた列車にひかれて死亡したという痛ましい事故について、鉄道会社の責任が問われたものである。

裁判所は、鉄道事業者に課される義務に関して、

ア)鉄道は人の生命、身体などを侵害する多大な危険を伴うものであること
イ)鉄道は老年者から小児まで等注意能力が多様な旅客を大量に輸送するものであること
ウ)そのため人身の安全確保に関しては、鉄道事業者は、列車の迅速な運行を図る目的等の他の業務目的に優先しても最大限の努力を払うべき義務を負うものであって、事故の発生を未然に防止するよう万全の措置を講ずべき高度の注意義務があること

 

という判断を示した。

そのうえで、京王稲田堤駅ホームはその構造上湾曲しており車掌からは前方の確認が困難であること、転落事故が発生した箇所は列車とホームとの間に20センチメートルほどの隙間があり、乗客がその隙間に転落する可能性があること、ホーム監視の係員は発車間際に駆け込み乗車をする乗客がいることも予測すべきであることを指摘。駆け込み乗車を試みた女児にも大きな過失があるとしつつも、係員が確認不十分で列車を発車させたことにも女児死亡の原因があるとして、鉄道事業者の責任割合を25%認めた。

鉄道事業者に課せられた責任は厳しい

この事故は不幸な偶然が重なって生じた事故ではある。しかし、ホームと線路との間に大きな隙間が生じている駅は全国に存在する。隙間が大きく空いていれば転落を完全に防ぐことは難しく、アナウンスで気を付けろと繰り返し注意し、利用者が慎重に行動しても、転落する人が0にはなることはないであろう。そして、転落者を見落とす可能性を前提として列車発車時に隙間すべての状況を駅員が逐一確認するというのも必ずしも容易ではないであろう。

輸送中に乗客に損害が生じると、商法第590条により、鉄道事業者は運送に関し注意を怠らなかったことを証明しない限り、旅客に対する損害賠償責任を免れず(第1項)、損害賠償額を定める場合に被害者やその家族の状況が考慮される可能性もある(第2項)。このように鉄道事業者には安全に対する強度の責任が課されている。また、施設の構造上問題があれば、民法第717条による不法行為責任が認められるし、それ以外でも民法第709条に基づく一般的な不法行為責任に問われ得る。

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