松下幸之助「経営者は目に見えぬものを見よ」 経営の神様が語る「成功のために大事なこと」

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今日、日本の経済が世界的に強くなったと言われているけど、こういうようにふたつの要因に取り組んできた、という面もあると思うな。まあ、ほかの国はどちらかと言えば、この見える要因ばかりとは言わんが、これに重きを置いてやってきた。これではうまくいかんわ。

日本もこのごろは、こうしたことを軽く考え、目に見えるものばかりを追いかけるようになってきているが、そういうことでは将来が心配やな。企業の力が衰えていくね。かっこいいことばかり言っておっても、それで現実が動くもんではない。実際に有効かどうかという判断よりも、こういう発言をしたほうが人気がとれるとか、かっこいいからとか、世間の受けがいいから、というふうに考えて、ものを言う人が多くなっている。口舌の徒という人が多いな、このごろは。

自然の理法に従って行動する

わしは学校を出てへんから、きみたちのように学問や知識を頼りにすることはできなかった。世間の人たちの言うことも、いったいどれが真実なのか正しいのか、正直、判断ができん場合が多かった。それで、わしはなにをひとつの拠りどころにしたかというと、この宇宙とか自然とか万物というか、そういうものやったな。

この庭を見ておると、そんなことが思い出されてくるな。なんか難しい問題にぶつかる。どうしようかと思い悩むことがある。そんなときにジッと天地宇宙を考え、自然を、周りの景色を眺めてみる。ほんまやで。そういうことをしてきたな。

きょうはいいお天気やけどね。お日さんを見ておると、ああ、素直な心で考え、行動せんといかんなと感じられる。お日さんは、なんに対しても分け隔てなく日ざしをおくっておるわな。人間にも動物にも、こういう木々にも、なんに対しても平等に光を当てておる。いや、あの人はいい人ですから陽を当てることにします、この人は悪い人ですから陽はあてません、とお日さんがやっておるということはない。人間には当てるが、植物には当てませんということもない。その現象は、まったくとらわれてはおらんわね。

お日さんだけではない。この宇宙にあるすべてのものが、自己にとらわれて、その営みをしておるわけではない。月も風も森の木々もそれぞれの考えや主義主張、あるいはその立場にとらわれて、それぞれの行動を起こしておるのではないわな。

考えてみればこの宇宙に存在する一切のものが、自然の理法に従って、おのれにとらわれず、それぞれの行動をしておるんや。人間も宇宙自然の存在ならば、同じように自然の理法に従って、自分にとらわれず考え行動せんといかん。ならば、わしもこだわらず、とらわれず、素直な心になって考えんといかん、行動せんといかん。そう感じて、わしは心がけてきたんや。まあ、だから、わしの先生は、自然、宇宙万物ということやね。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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