32歳崖っぷち女を変貌させた婚活戦争の壮絶

東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<17>

もっと厳しく叱られ、ダメ出しを浴びせられると、杏子は覚悟していた。しかし、どうやら直人は本気で自分を心配し、サポートしてくれているようだ。

この戦国時代のような婚活市場で、杏子の味方は、たった一人、直人だけであるような気がした。

杏子の頬を、思わず涙が伝う。

直人は無言で、スッとハンカチを差し出した。「では、今日はオファーを出す5人を選んでください。今すぐに」。

その日、直人が優しさを見せた気がしたのは、ほんの一瞬だった。

リアルな市場価値を受け入れ、女は次第に強くなる

涙を拭く杏子を前にして、直人は次の瞬間にはスパルタを取り戻し、杏子は泣く泣く5人の男を選ばされた。そして翌日、そのうち2人とのマッチングが成功したと、知らせを受けたのだった。

――5人中、2人……。私の成功率は、40%ってことなのね……。

他3人は、恐らく杏子のオファーを断ったということだ。杏子は、ニッコリと優雅に微笑んだ自分のプロフィール写真を思い浮かべる。

あれを見てオファーを断る男がいるなんて信じ難いが、度重なる苦い経験により、「成功率40%」というリアルな市場価値にも、杏子はさほど抵抗を持たなくなっていた。女は、こうして自尊心を傷つけられることに慣れ、次第に強くなっていくものなのだろうか。

直人の仕事の速さは、外資金融で活躍する杏子も脱帽するほどだった。相談所を訪れた2日後の夜には、さっそく1人目との面会が設定された。おかげで杏子は、知樹のことを思い出す暇もない。

指定された場所は、帝国ホテルの『ランデブーラウンジ』だった。初めてのマッチングが行われたのと同じ場所である。

――あれはもう、3カ月も前のことなのね。また、振り出しに戻っちゃった……。

これまでの婚活を振り返ると、心がつい、どんよりと曇ってしまう。

重い足取りで席に向かうと、しかし、そこには光輝くような笑顔を浮かべた男が杏子を待っていた。

「はじめまして!松岡と申します!!本日はお時間頂き、ありがとうございます!!!」

その松岡修造似の男は、杏子が怯んでしまうほどの爽やかさで言った。そういえば、彼のプロフィール写真を見たときも、その笑顔が気に入り、オファーを出したのだった。

ほんのりと浅黒い肌に、白く光る歯。ピンと伸びた姿勢には、品がある。そして、シンプルなネイビーのセーターにジーンズというカジュアルな服装の上からでも、彼がほどよく筋肉のついた、魅力的な体格をしていることが一目で分かった。

職業は確か、スポーツジムの経営だったはずだ。

――なに、この人。スマート過ぎる。超タイプだわ……!

杏子はあまりの好印象に言葉を失い、生まれて初めて、「一目惚れ」という感覚に陥った。

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