シラー教授、アベノミクスを語る ノーベル経済学賞学者の視点
期待は実現しないと持続しない
──「大胆な金融政策」についてはどう見ますか。
日本銀行は量的緩和の発明者であり、ゼロからマイナスレンジのインフレ率が続いていることを考えると、政策がさらに一歩進んだことは驚くに当たらない。
ケインズ経済学に立ち返れば、「流動性のわな」(ゼロ金利となり、貨幣の需要が無限大になること)に陥ると、金融政策は刺激的な効果を持ちえなくなる。現在の量的緩和策はこれを超えて、長期金利も下げようとする政策だが、やはり金融政策だけでは効果は出ず、財政政策と併せるべきだということになる。
──日本銀行のインフレ目標2%の達成は難しいとの見方も多い。「期待を変える」ことに成功するでしょうか。
「期待」は、経済のダイナミクスへの影響という点で非常に重要だ。ただ、日本で「期待」を変えるには長い年月が必要だ。期待は「実現」しないとその効果が持続しない。ある程度短期間で期待の一部が現実のものになれば、効果が出てくるのではないか。
かつて1929年の大恐慌時にハーバート・フーヴァー大統領は「景気回復はそこまで来ている」と言い続けたが、彼の任期中には回復せず、後に楽観主義に取りつかれていたという評価になり、さらに失望感が広がった。結局、10年経っても恐慌は続き、残念ながらこれを脱したのは戦争によってだった。
スランプの時間が長く続く可能性はあり、アベノミクスは財政拡張でこれを脱しようとしている。
──「アニマルスピリット」(起業家精神)は日本で復活しますか。
アベノミクスの第3の矢に当たる民間投資の活性化が極めて重要だ。これほど長い期間、日本の株価や地価が下がり続けたことのほうがむしろ驚きだ。何もしなくても、アニマルスピリットが戻ってもいい頃だ。自律的回復の時期に来ているのではないか。
──米国で金融政策が出口に向かい、金利が上昇してくれば、住宅市場にマイナスの影響が出るのではないですか。
住宅ローン金利の水準は量的緩和第3弾(QE3)でかつてない低水準になり、住宅市場の回復に寄与した。ただ、ローン金利と住宅市場の動向は必ずしも密接に関係しているわけではない。住宅価格を予測するのは難しい。投機資金も入っている。一部の都市ではバブル的な投機の兆候が起こりつつあるので、金利が上昇すると、投機熱が冷めて急に落ち込むという可能性はある。
──日本の株価についてどう見ますか。
CAPEレシオ(景気循環調整後の1株当たり株価収益率)で見ると、それほど高くない。低い水準から短期間で大きく回復したのでバブルのように見えるが、歴史的にはまだ低水準だ。
(撮影:今井康一 =週刊東洋経済2013年7月6日)
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