トランプ勝利もBrexitも「衆愚政治」ではない エスタブリッシュメントの誤りが証明された

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いずれの指標も、グローバリゼーションが終焉したことを示しているのである。

にもかかわらず、エスタブリッシュメントは、なおグローバリゼーションを疑わず、あまつさえ、それをさらに推進しようとしている。それでは、深い閉塞感に陥った米国民がトランプのような人物に救いを求めるしかなくなっても当然ではないか。

なお、TPPの挫折をもって自由貿易体制の崩壊だと騒ぎ立てるのは早計である。TPPが発効しなくとも、環太平洋はすでに十分に自由貿易体制だ。米国の民意が拒否したのは、自由貿易体制そのものではなく、エスタブリッシュメントが過剰に進めたグローバリゼーション(TPPはその象徴)なのだ。

「強兵」なき「富国」を夢見ることができた時代は終わった

グローバリゼーションは経済的繁栄を約束しないというだけではない。それがより平和な世界をもたらすというのも間違いである。

大統領選の最中のトランプは、米国はもはや「世界の警察官」たり得ないと訴え、日米同盟の見直しにも言及して、わが国を震撼させた。だが、これもグローバリゼーションが招いた結果なのである。

すでに述べたように、グローバリゼーションは米国の経済力を弱体化させるものである。他方、軍事力を支えるのは経済力だ。経済力が衰えるならば、米国の軍事力も弱まり、「世界の警察官」たり得なくなる。

しかも、グローバリゼーションは米国民の豊かな生活を約束しないのである。ならば、米国民が多大なコストを負担してでもグローバルな秩序を守ろうという動機を失って当然であろう。

グローバリゼーションが「富国」をもたらし、「強兵」を不要とするはずだというエスタブリッシュメントのコンセンサスは、こうして破綻を露呈したのである。

さらに悪いことに、2000年代の中国は、米国の支援によってグローバル経済に統合されたのを利用して、まんまと輸出主導の高度経済成長を達成するとともに、年率2ケタ台のペースで軍事費を拡大した。中国は「富国強兵」を実践したのである。

その結果、アジアにおける米中間のパワー・バランスが崩れ始めた。それがまさに、中国による東シナ海や南シナ海への攻撃的な進出として現れているのである。そのアジアにおける危険な地政学的変動の只中に、わが国は置かれているのだ。

「強兵」なき「富国」を夢見ることができた時代は過去のものとなった。われわれは、再び「富国強兵」に否が応でも取り組まなければならないのである。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。

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