社長解任で統合破談 川重、再成長への難題 長谷川氏らに対し、ほかの役員たちが反旗。

拡大
縮小

資源分野が欲しかった?

各種インフラや産業用設備などを手掛ける重工大手メーカーは、日本の高度成長とともに成長を遂げたが、国内需要の縮小で売上高の拡大が止まって久しい。こうした中、最大手の三菱重工業は、基幹分野の大型ガスタービンを柱とする火力発電インフラで日立製作所との事業統合を決断。宮永俊一社長は「私の使命は三菱重工の再成長」と言い切り、新興国で潜在需要が大きな火力発電事業を成長の牽引役に位置づける。

一方、川重はどうか。大型2輪は主力の北米・欧州市場が頭打ちとなり、鉄道車両は最大顧客のJRによる車両投資が縮小。この数年間、中国の建機用途で稼いだ油圧機器にしても、中国景気の減速で一気に需要が冷え込んだ。米国ボーイング社向けの製造分担品を手掛ける航空、工場自家発電用などの小型ガスタービンは成長が見込めるが、1兆円企業を引っ張るには物足りない。

長谷川氏らが統合に固執した意図が、造船の生き残り策としてではなく、成長分野の獲得にあったと考えれば納得がいく。商船建造と舶用エンジンは厳しい反面、三井造船は魅力的な成長事業も有しているからだ。その筆頭が、海洋での原油生産に使用されるFPSO(浮体式の海洋原油貯蔵積出設備)の設計・エンジニアリングを手掛ける子会社、三井海洋開発だ。

FPSOは不純物などを取り除いて原油を一時貯蔵する大型の海洋プラント構造物で、三井海洋は欧州のSBM社と並ぶ専門エンジニアリングの世界大手。全長300メートルもの大型タンカーに巨大なプラント装置を搭載したFPSOは、1基当たりの受注金額が1000億円近い。ブラジルや西アフリカでは深海油田の開発計画が数多く、FPSOも需要の拡大が見込まれている。

また、三井造船が本体で手掛ける陸上プラントは石油化学を得意とし、日本企業としては珍しく米国にもプラント事業の地盤を持つ。米国では安価なシェールガスを原料とする石化系工場の建設が相次いでおり、三井造船もクラレの新工場を受注するなど追い風が吹く。

「当社のこれからの成長を牽引するのは、海洋を含む資源・エネルギー関連。そこははっきりしている」。経営企画、財務経理などを一手に担い、長谷川氏とともに統合交渉を推し進めていた高尾氏は5月、本誌の取材にこう語っていた。不振の造船を背負うリスクは理解しつつも、資源・エネルギー分野の強化には三井海洋などが欲しかったのだろう。

だが、川重・三井造船の大型再編は幻に終わった。解任という荒業で再編を阻止した川重の新経営陣は、再成長を実現できるのか。その肩には重い課題と責務がのしかかる。

週刊東洋経済2013年6月29日

渡辺 清治 東洋経済 記者
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