牛角がフレッシュネスバーガーを買った理由 3度目の"身売り"は成功するのか

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ファストフードチェーンの基本はQSC (品質を意味するクオリティー、サービス、清潔を意味するクレンリネス)を徹底的に磨き、リピート客を増やすことにある。が、「フレッシュネスはQSCの中で、特にクリンネス(清潔さ)のレベルが低い。収益水準が低いため、店舗改装などへの再投資ができていない」(松下氏)と指摘する。

膨張するコロワイド

本社ビル1階にある店舗。現在の親会社であるユニマットのロゴがある

1店舗あたりの年間平均売上高は推計で約5000万円に過ぎない。マクドナルドの1.2億円、モスの7600万円、牛丼チェーンで8000万円ということを考えても、大幅に低い。あるハンバーガーチェーンのOBは「FCオーナーの中には、自店舗で働かずに、他業種でアルバイトをしているという、うわさもある」と明かす。

フレッシュネスもここに来てやっと施策を打ち始めている。2年ほど前から店舗改装を進めたことや新商品投入により、売上高は反転、2015年2月~2016年7月まで18ヵ月間、既存店売上高は前年超えを記録した。今年4月のメニュー改定で一部のメニューを休止し、さらなるオペレーションの改善にも取り組んでいる。「もう1段収益力をあげなければ、大幅に店舗を増やすのは難しい」とフレッシュネスの船曵睦雄・常務取締役は話す。

そんなフレッシュネスを買収したレインズの事情はどうなのか。親会社であるコロワイドは神奈川県を地盤に居酒屋「甘太郎」などを展開しており、1999年に株式を店頭公開(現ジャスダック)している。その後2000年代からM&Aを繰り返し、急激に業容を拡大させた。

当初は居酒屋を中心にM&Aを進めていたが、若者のアルコール離れなど業界の縮小を見越して、レストラン事業強化に乗り出している。2005年には「ステーキ宮」「カルビ大将」などを運営するアトムを、2012年にはレインズを、2014年には回転ずし「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトを買収した。今回のフレッシュネス買収でファストフード業界への足掛かりを作ったことになる。

ただ、積極的に進めている買収が必ずしも効果をあげているとはいえない。2014年に買収したカッパ・クリエイトでは客離れに歯止めがかからず、立て直せずにいる。2015年度下期に店舗の人件費を削減した結果、サービスの低下を招き、客離れが加速した。

今年6月には社長を交代させ、テレビCMなど積極的な販促を打ったが、2016年度は4~10月まで1度も客数が前年を上回っていない。結果、カッパ・クリエイト、コロワイド両社とも2016年度第2四半期(4~9月)および通期業績の下方修正を迫られることとなった。

フレッシュネスについても相乗効果は微妙だ。「コロワイドは買収した会社を、ただ”くっつけているだけ”という印象が強く、M&A戦略にストーリーが感じられない。業態の違いやフレッシュネスの規模を考えると原材料の共同調達によるシナジーも期待しにくい」(外食産業のM&Aに詳しいジェイ・キャピタル・パートナーズの田中博文社長)。

一方でフレッシュネスの期待は膨らむ。「やっと健全な体制になってきた。今後の成長を考えたときに大手外食チェーンであるコロワイドグループ入りはチャンス。食材調達力、不動産やFC運営のノウハウを活用し、今後は400店程度まで増やしたい」と船曵常務は語る。

フレッシュネスにとっては、この10年間で3回目の"身売り"となる。今回は外食大手企業の傘下で、期待どおりの効果は生み出せるのか。

常盤 有未 東洋経済 記者

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ときわ ゆうみ / Yuumi Tokiwa

これまでに自動車タイヤ・部品、トラック、輸入車、楽器、スポーツ・アウトドア、コンビニ、外食、通販、美容家電業界を担当。

現在は『週刊東洋経済』編集部で特集の企画・編集を担当するとともに教育業界などを取材。週刊東洋経済臨時増刊『本当に強い大学』編集長。趣味はサッカー、ラーメン研究。休日はダンスフィットネス、フットサルにいそしむ。

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