ノバルティス論文疑惑、バカを見るのは患者? 臨床試験に社員が身分を隠して関与。データ捏造の可能性も

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

患者がバカを見る

ノバルティスにとって、バルサルタンは日本での売上高が1000億円を超える看板商品だ。同社は五つの臨床試験に対する組織ぐるみでの関与を否定するが、これまで臨床試験に関する論文が学会で発表されると同時に「複合心血管イベント発症の危険率が45%減少」などと大々的にアピールしていた(下写真)。

業界誌には「ディオバン発売10周年記念特別座談会」などとうたい、11~12年には8回に上る企画広告を掲載した。そこでは、キョウトハート試験など医師主導試験の責任者や学会の「キーオピニオンリーダー」が登場し、「(バルサルタンの投与群で)脳卒中の相対リスクは45%、狭心症の相対リスクは49%、おのおの有意に減少した」(前出の松原氏)などと宣伝していた。

「そもそも降圧治療間の比較で、血圧に差がないのに心血管イベントのリスクが大幅に異なることは考えにくい」

こう指摘するのは、臨床試験のデータ解析におけるわが国での第一人者として知られる大橋靖雄・東京大学大学院医学系研究科教授だ。

数多くの臨床試験に関与してきた大橋教授は次のように語る。

「キョウトハート試験など今回問題になっている試験では、プライマリーエンドポイント(主要評価項目)に医師の裁量が入る主観的な項目が多く、信頼性に難がある。そのうえ一連の試験の論文からは、データのモニタリングや監査をしっかりやっているようには見えない。それゆえ、試験結果を額面どおり受け止めることは難しい」

疑惑が深まる中で、一連の試験を主導した各大学は、データの信頼性に関する調査を開始した。しかし、カルテ保存義務の5年が過ぎていることや統計解析を元社員に任せきりにしていた疑いがあることから、真相究明は難航が必至だ。そもそも大学側に、自らの非を認める自浄作用があるのかも定かでない。結局、患者がバカを見るのかもしれない。

週刊東洋経済2013年6月8日

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事