教育困難校の「英語の授業」で見た悲惨な現実 アルファベットも書けない生徒が大量に存在
いつものようにざわついていた教室内の雰囲気が少し落ち着き、ようやく授業ができそうになると、教師は「はい、今から辞書を配るからね」と言って、スーパーに設置してあるものと同サイズの買い物かごに入れた辞書を一冊ずつ配り始める。なぜ、自分の辞書を使わせないのだろう、あるいは、入学時に買った電子辞書があるのではないかと、読者の中には疑問に思う方もいるかもしれない。
辞書を買えない生徒も少なくない
実は、教育困難校では、英語や国語の辞書を数クラス分用意し、毎時間生徒に貸している学校がかなりある。辞書を持っていても、学校に持参することを忘れる生徒が多いし、それ以上に、辞書(当然ながら電子辞書も)を買えない生徒も少なくないからだ。もちろん、丁寧に使うように教師が毎回注意はしているが、確認してみると、いたずら書きがしてあったり、ページが切られている辞書もある。それでも、新しい辞書を買う教科の予算が潤沢ではないので、それを使わざるをえないのが悩みの1つだ。
辞書が行き渡ると今度は、プリントを配布する。教科書を買ってはあるが、生徒の能力ではそのまま使える内容はほとんどないし、教科書だけでは生徒の集中力が持たない。毎時間、授業の最初は、生徒の興味を引くようなイラストをたくさん入れた手作りプリントを生徒にやらせている。今日は、曜日を英語で書くプリントだ。
教師は机間巡視しながら、生徒の字の間違いを指摘したり、やる気なく机にうつ伏せになっている生徒に声をかけて起こしたりしていく。プリントには、曜日以外に、色名など15の単語を、5回ずつ書く欄が作ってある。それを全部書き終えると、教師の元に持って行き確認してもらい、全部正しく書けていれば、生徒のノートに貼ってあるポイント表に押印するシステムだ。
押すスタンプも、チューリップやネコ、パンダなど数種類用意してあり、インクの色も複数そろえてある。これらは、「生徒に少しでもやる気を出させたい」と考えたうえの工夫だ。高校生にもなって、そんなことでやる気が出るのかと疑問に思う向きもあるだろうが、小学校以来、学校で褒められ慣れていない生徒には、「できてるよ」「よく、やったね」といった教師の言葉とともに押されるスタンプは、小さな達成感を与える励みになっているようである。
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