銀行が国債を売ったのは投資でなく防御が目的
では、なぜ長期金利が上がったのか? 株価が上昇したので、銀行が国債を売って株を購入したためだという説明がなされている。
この説明が正しいかどうかを確かめるには、銀行の資産がどのように変化したかを調べる必要がある。そのデータが得られない現時点で確固たることは言えないが、銀行がこうした行動を取るとは考えにくい。
なぜなら、自己資本の計算上、自国国債はリスクのない資産と見なされるからだ。実際、満期まで保有すれば、市場価格がいかに変動しても、額面通りの償還が得られる。そして、銀行にとって自己資本比率の維持は重要な課題だ。株価が上がったからといって、国債を簡単に売却するとは思えない。それに、株価がすでに上昇してしまった今、株に新規投資するのは、極めてリスキーだ。
銀行が国債を売ったのは事実だろうが、それは、株投資を増やしたいためではないだろう。銀行は、残存期間が長期の国債を売って、残存期間が短期の国債を購入したのではないかと思われる。つまり、保有国債の平均残存期間(デュレーション)を短期化したのだ。これは、イールドカーブの傾きが急になったという事実とも合致している。
では、銀行はなぜこうした行動を取ったのか? それは、デュレーションを短期化しておけば、金利上昇が生じた場合の損失を抑えられるからだ。つまり、銀行の国債売却は、株式というハイリスク・ハイリターン投資を求める積極的なものではなく、金利上昇の可能性に備えた防御的なものと考えられる。
この解釈が正しいとすれば、長期金利高騰の根底にあるのは、長期金利高騰の予想である。
では、銀行はなぜ金利上昇を予想するのか? それをこれから述べるが、その前に、名目金利の上昇は、金融緩和と矛盾するのが普通であることに注意しよう。なぜなら、金融緩和とは、マネーストックを増大させて金利を下げるものだからだ。
ただし、ここで考えられているのは実質金利だ。名目金利がどうなるかは、物価上昇率の見通しによる。フィッシャー方程式(名目金利=実質金利+期待物価上昇率)によれば、実質金利の低下幅が物価上昇率の引き上げ幅より大きい限り、名目金利は低下する。金融緩和の効果として普通期待されるのは、こうした事態だろう。今回の金融緩和でも、そうした結果が期待されているはずだ。
しかし、実質金利の低下が物価上昇率の上昇に及ばなければ、名目金利は上昇する。市場は、こうした事態を想定しているかもしれない。
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