F1ドライバー養成の特別講座に挑戦してみた プロサイクリストの別府史之氏が体験

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そんな“Fumy”こと別府史之が今日訪れるのは、ロンドン郊外ウォーキングにあるマクラーレン・テクノロジー・センター(MTC)。F1チームの古豪、マクラーレン・ホンダの本拠地だ。現在、トレック・セガフレードに所属する別府が、どことなく所在なげに見えるのは、自分のバイクをフランスの自宅に置いてきたからだろうか。というのも今回の渡英の目的はレース参戦ではない。プロサイクリングに勝るとも劣らない激しいトレーニングで知られるF1ドライバー養成プログラムを実体験することにあるのだ。プロのレベルにあっては、F1ドライバーであれ、自転車選手であれ、レース中のミスは致命的となり得る。そのためどちらのスポーツも、超人的なフィジカルの強さと持久力が選手に求められる。プロトンでの一瞬の気の緩みは周囲の選手を巻き込む転倒事故につながるし、難易度の高いF1サーキットでは、わずかな判断の誤りから甚大なアクシデントが起こることも少なくない。

F1の過酷なコンディションを実感

別府の来訪にあたり、マクラーレンスタッフの準備も実に周到だった。短時間ながら、フェルナンド・アロンソやジェンソン・バトンら所属F1ドライバーが実際にこなすトレーニングを肌身で体感できるよう完璧な日程を組んで待ち構えていたのだ。まずはイギリスを代表する建築事務所、フォスター・アンド・パートナーズが設計した、宇宙船のような本社ビルを手短にツアー。その後、ホワイトキューブのような塵一つない部屋へと通された別府は、鎮座していたF1マシンに乗り込むよう促された。ペドロ・デ・ラ・ロサが2006年シーズンにステアリングを握った「MP4-21」の実車だ。

「コクピットに座ってみてください」。近くにいたエンジニアが声をかけると別府はさっそく乗り込む体勢に移った。が、明らかに余分な脂肪のまったくないリーンな体型の別府にしてみても、容易に腰を落ち着けられるスペースは見当たらない。それもそのはず、F1マシンとドライバーを合わせた重量制限は最低702kgと厳格に決められており、ドライバーはストイックなまでの体重管理が求められるのだ。スリムな腰回りをした別府も、エンジニアのサポートを得てなんとかシートに収まったが、2〜3分もすると「もう出して!」と軽やかな声色ながら、快適とは口を曲げても言えないコクピットを脱出したくて仕方がない様子だった。

次に別府を待っていたのはシミュレーターだ。前後左右だけでなく上下にも自在に動いてF1マシンの挙動やサーキットのトラクションまでも再現できるため、ドライバーのトレーニングに欠かせない。ヘルメットを被りさっそく乗り込んだ別府は、ステアリング越しに見える視界の狭さに驚いた様子。

「視野はものすごく狭いし、高温なコンディションで、一度にたくさんのタスクをこなさなければいけないなんて驚きです。アドレナリン全開で心拍数も高い。その状況でラジオの指示を聞き、さらにマシンをコントロールして、勝ち負けを左右する判断を一瞬のうちにしなければいけないのですから。もうスゴイというしかないですね」。ちなみにクラッシュした際、安全に避難するため6秒でコクピットから脱出しなければならない、と聞き、別府もチャレンジしたが、結果は17秒と3倍近い時間がかかった。

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