国交省「びっくり提案」に鉄道業界が猛反対 官民で食い違う「オールジャパン」の寒い実態
しかし、前述の車両開発担当者は国交省の発言に疑問を呈する。「103系は各地に投入されてきたが、本来は線区事情や利用者の意向に沿った車両を製造して投入するべき。また、メーカーには自社に最適な鉄道車両を造ってもらいたいというのが鉄道事業者の思いであり、他の鉄道事業者と共通の車両を使ってくれというのは無理がある」。
国鉄が標準車両を大量に導入していた時期は高度成長期に重なる。同一車両を導入することは、鉄道のメンテナンス技術を全国レベルで引き上げるという点でも意義があった。しかし、JR化後は、各社が地域に特性に合わせた個性的なデザインの車両を開発している。標準車両の投入はJR化の流れにも逆行する。
ただ首都圏では、JRや私鉄各社間で相互直通運転が積極的に行なわれている。車両は各社が個別に開発したものであっても、無線や信号などの設備は相互乗り入れが可能なように統一化したり、複数の設備を導入したりするなどの対策が施されている。相互乗り入れする鉄道事業者同士で車両を共同開発すれば、国交省の狙いどおり効率化が図られるかもしれない。
東京メトロ・日比谷線と東武鉄道・伊勢崎線は相互直通運転が行なわれている。現在は両社の別々の車両が走っているが、今年度中に投入される東京メトロ「13000系」と東武「70000系」は、見た目こそ若干違うが、車両機器や車内の主要設備の仕様は極力共通化した。つまり、国交省の目指す標準車両の局地版とでもいうべき存在だ。近畿車輛が1社で両方の車両の製造を手掛けている。
では13000系と70000系はなぜ完全に同じではないのか。その理由について、東京メトロは「相互乗り入れに支障がない範囲で、自社のほかの車両との共通性を確保したいという部分はある」としている。
実は、どの鉄道事業者も国交省の思惑とは別に、自社内での標準化を進めている。東京メトロの路線を走る車両はメーカーも仕様もまちまちだが、近年開発する車両の仕様は、メンテナンスの部分で似通っている部分が少なくないという。自社内での標準化を他社車両との標準化よりも優先するということは確かにありある。
メーカーは「共同開発」と解釈
一方で、国交省の発言に対する鉄道車両メーカーの反応は、鉄道事業者とは違ったものだった。車両メーカー各社に標準車両の共同開発を求めているというのだ。
欧州の車両メーカーでは、各社ごとに標準車両を開発して、それを各国の鉄道事業者に売り込む「カタログ販売」という手法が主流だ。それに対して、日本のメーカーは鉄道事業者のニーズに合わせて車両をゼロから開発する「オーダーメイド」的な販売を得意とする。
ただし、日立製作所はモジュール化による省コストを実現した「Aトレイン」というブランドで様々な車両を開発している。また総合車両製作所は、親会社であるJR東日本からの大量発注を武器に「サスティナ」という通勤車両ブランドを築き上げるなど、独自の標準化で事業展開する企業もある。そこへ出てきた国交省の発言は、護送船団方式への回帰のように見える。
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