国交省「びっくり提案」に鉄道業界が猛反対 官民で食い違う「オールジャパン」の寒い実態

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国交省の発言に対して、あるメーカー関係者は「国際競争力といってもメーカーごとに得意分野はまちまちで、それを標準化したら国際競争力に逆行しかねない。日本の強みが顧客の意向に対応するテーラーメイドだということがわかっていない」と呆れかえる。

日立で鉄道部門のトップを務めるアリステア・ドーマー氏は、以下のような疑問を呈する。「当社は製造業者としてはコスト削減のために標準化を進めている。その一方で、顧客の要求に応えるために多くのカスタマイズもしている。もし国が提案するように標準車両を造っても、顧客は買ってくれないのではないか」。

バンコクに向けて船積みされるパープルライン車両(撮影:尾形文繁)

8月に開業したバンコクの都市鉄道「パープルライン」は東芝、丸紅、JR東日本などの日本連合が受注、総合車両製作所が製造した車両が使われている。山手線「E235系」と同じくサスティナをベースとしており、「サスティナとして共通化されている部分は多い」(丸紅)というものの、実際には、かなりの部分で現地仕様に合わせたカスタマイズを行なったようだ。標準化された車両がそのまま売れるという状況ではない。

国交省は主張を後退させた?

鉄道業界のこうした反発を、国交省はどう見ているのか。鉄道局の担当者に真意を聞いたところ、予想外の答えが返ってきた。「現在、業界が取り組んでいる標準化の活動をもう一段進めましょうということ。鉄道事業者に標準車両を大量導入してほしいとか、メーカーに標準車両を共同開発してほしいということではない」。

この話を聞く限り、国交省の提案は鉄道業界が反発する内容ではなさそうだ。あるいは業界の思わぬ反発に国交省が主張を後退させたのかもしれない。いずれにしても、標準車両を共同開発するという時代錯誤的な事態は回避できそうだ。

冒頭に書いたとおり、マニラ案件の失注は、国とメーカーの間で情報共有ができなかったことが原因となった。この状況を改善するため国交省によるヒアリングが行われたが、そ過程においても国と鉄道業界の間で意思統一ができていないことが露呈してしまった。

安倍首相のトップセールスで勝ち取ったインド高速鉄道案件は、現在は両国政府間で事業スケジュールなど今後の進め方を協議している段階にある。その結果を踏まえて、いよいよ日本の民間企業が高速鉄道建設に動き出す。

しかし、官民で意思疎通すらできていないようでは、今後の事業に支障が出かねない。安倍政権は「オールジャパン」の実態を根本から見つめ直す必要がある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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