32歳高年収女子、中途半端な試みは失敗した 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<9>
「私、今夜の正木さんとのディナーはキャンセルしますわ!直人さんから正木さんにお伝えください!」
耐え切れなくなった杏子は、怒りの矛先をどこへ向けたら良いか分からず、婚活アドバイザーの直人に電話をした。
「急にどうしたんですか。まさか、正木さんから連絡が来ないからって殺気立ってるんじゃないでしょうね」。杏子は早速直人に心の中を見透かされ、言葉に詰まる。
「だから杏子さん、感情的になるのはやめてください。まだ昼の12時を過ぎたばかりですよ。どうせ予定がないなら、とりあえず待機していてください。夕方まで連絡がなければ、僕の方からも聞いてみるので」
私、そんなに都合の良い女じゃない!
「で、でも…私、そんなに都合の良い女じゃありませんわ!"ルールズ"にだって、土曜日のデートの約束は水曜日までに締め切るべきって書いてありました。それに、私からも7回も電話したんですよ!それなのに、連絡しないなんて、おかしいじゃないですか!!」
杏子は食い下がる。そうだ、正木は自分を舐めている。そんなデート、自分からキャンセルしてしまえばいいのだ。それが正しいモテる女の行動だ。
「えっ...、7回も電話したんですか?あなたって人は、本当に...。それに、ルールズって、あの恋愛本のことですか?参考にするのは良いですが、杏子さん向きの本ではありませんよ。感情的な女性は、どうせルールズの教訓は守れないんです。それに、正木さんはお医者様ですよ。夜勤などで連絡ができないだけでは?とにかく深呼吸をして、まず心を落ち着けて、夕方5時まで待ってみて下さい」
「この私に、あと5時間も待ちぼうけしろって言うんですか?!」
「杏子さんには難しいかも知れませんが、練習と思って、ゆったりと構えていればいいんです。男性に振り回されないようにして下さい」
「振り回されてなんていませんわ!!もう、いいです!!!」
振り回されるという言葉にカチンと来た杏子は、一方的に直人との電話を切った。もういい。正木から連絡が来ても、今日は予定が入ったと言って断ることにしよう。杏子は断固決意した。
「杏子ちゃん、俺だよオレオレ。電話いっぱいくれたのに、ゴメンねー。朝まで夜勤で、電話折り返すには時間が早すぎたから、起きたら連絡しようと思ってたんだぁ。電話番号しか分からないから、メールも出来なくてさ。相談所って不便だねー。」
正木から電話が来たのは、14時過ぎだった。声から察するに、本当に寝起きのようだ。杏子は彼の謝罪の言葉を聞くと、怒り狂っていた今までの自分が、急に少し恥ずかしくなった。