北朝鮮で何が起きているのか? ロバート・マニング氏に聞く

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――北朝鮮は、どんな結末を迎えれば、面目を保つことができるのか。

北朝鮮はただ勝利宣言をするだけでいいのだと思う。つまり、米国とその手先である韓国が今にも北朝鮮を攻撃しようとしたが、正恩氏が英雄的な構えを見せたために敵は退却を余儀なくされた――という話をでっち上げるだけで十分だ。だからこそ北朝鮮は、緊張が高まっているさなかの4月15日(故金日成主席の誕生日)に祭典とマラソン大会を開催したのだろう。

またミサイル実験については、多くの予想に反して少なくとも今回のニセモノ危機のさなかに実施することは控えたが、その理由もこの辺りにあるのだろう。

――実際のところ、金正恩はどの程度、権力を握っているのか。

その点ははっきりとはわからない。しかし正恩氏の叔父(父親の義弟)である張成沢氏が後見役を務めてきたことはわかっている。2008年に故金正日総書記が脳卒中で倒れた後の約1年間を思い起こすと、張成沢氏が日常業務を取り仕切っていた。私は、この張成沢氏が今でも大きな役割を担っているのだろうと見ている。ただし、北朝鮮では金正恩氏こそが政治上の正統として通っている。

――なぜ北朝鮮はケソン工場団地を閉鎖したのか。

以前にも操業を一時中断したことはあった。しかしケソン工業団地は北朝鮮の体制が自由に使えるカネを1年当たり約1億ドル生み出していることを考えると、背景には国内的な要因がうかがえる。ケソンでは毎日、5万3000人の北朝鮮人労働者が韓国人マネジャーと接触してきた。

中国にとって北朝鮮は重荷?

――中国は北朝鮮の命運を握る重要なプレーヤーだ。

中国政府にとっては、犬が尻尾に振り回されているような、いくぶん不面目な状況が生まれている。中国にとって問題なのは、北朝鮮の非核化よりも安定化を優先し、また北朝鮮の体制を維持するために十分な食糧、燃料、予備部品を提供しているにもかかわらず、現実にほとんど影響力を発揮できない点だ。

そして中国は、そのスイッチを切った場合の結果を恐れている。スイッチを切って北朝鮮が崩壊した場合に、緩衝国を失い、米国の陣営に入った朝鮮半島の統一国家と直接対峙するようになるのを恐れている。

しかし中国国内では、政治エリートや知的エリートの間で、北朝鮮は中国にとって資産というよりもむしろ重荷になっているのではないか、という議論が高まっている。中国は北朝鮮に対する制裁を承認し、ある程度の圧力をかけることには前向きだ。ただし、中国がどの程度まで制裁の実施に踏み切るかはわからない。

中国にとっての根本的な問題として、北朝鮮も旧ソ連と同じように、いずれかの時点で自らの重みに耐えかねて崩壊するだろうが、中国としてはそれをどうすることもできない。その一方で中国は、日米韓の3国と歩調を合わせることよりも、「仮定の事態」(つまり北朝鮮の崩壊)を想定しての議論に気が進まない。

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