エネルギー危機に備え公的支出を拡大せよ−−ジェフリー・サックス コロンビア大学地球研究所所長

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新技術開発に必要な公的資金の援助

石炭を環境に安全な形で利用するのに最も重要な技術は、石炭火力発電所から排出される二酸化炭素を回収し、地下に貯蔵する技術である。こうした“CCS(二酸化炭素回収・貯留)”技術は、中国、インド、オーストラリア、米国などの主要な石炭消費国にとって緊急に必要とされている。主要なCCS技術はすでに開発されており、設計段階から実験発電所を建設する時期にきている。

こうした有望な技術の実現を図るために、各国政府は先端研究に投資するだけでなく、初期段階の実験にかかる費用を負担すべきである。公的資金の支援がなければ、こうした新技術の実用化は遅れるだろう。現在当たり前となっている技術(たとえば航空機、コンピュータ、インターネットなど)は、開発と実用化の初期段階でいずれも公的資金の支援を受けてきた。

これらの技術が実用化されれば、何兆ドルもの経済効果をもたらすことは間違いないにもかかわらず、十分な公的資金の援助が行われていないのは驚きである。たとえば06年の国際エネルギー機関の資料によれば、米国政府はエネルギー調査研究にわずか30億ドルしか投資していない。インフレ率控除後の実質ベースでは、1980年代初めと比べると40%も減っており、その額は軍事支出のわずか1・5日分にすぎない。

具体的な状況を調べてみると、さらに絶望的である。米国政府のエネルギー再生技術(太陽、風力、地熱、海洋、バイオエネルギー)に対する支出はわずか2億3900万ドル、二酸化炭素の回収と貯留のための支出は6700万ドル、(建物、交通、産業の)エネルギー効率改善のための支出は3億5200万ドルにすぎない。

もちろん新エネルギー技術の開発は米国だけの責任ではない。エネルギー供給を増やし、化石燃料の利用で起こる気候変化を阻止することで環境に優しいエネルギー利用を実現するためには国際協力が必要である。これはよき経済学であるだけでなく、よき政策でもある。減少する原油、天然ガス、石炭の争奪戦で世界を分裂させるのではなく、共通な利益のために世界を統一することは可能なのである。

ジェフリー・サックス
1954年生まれ。80年ハーバード大学博士号取得後、83年に同大学経済学部教授に就任。現在はコロンビア大学地球研究所所長。国際開発の第一人者であり、途上国政府や国際機関のアドバイザーを務める。『貧困の終焉』など著書多数。

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