この日の討論は終始、クリントン氏が主導権を取って攻勢に回り、トランプ氏が守勢に回る格好となった。「お父さんから大金をもらってビジネスを始めたのよね」「会社を何回も倒産させているじゃない」「賃貸ビジネスで、黒人などのマイノリティを差別していたわよね」などと次々と指摘され、それに対してひたすら弁解を述べるという展開が続いた。
トランプは常に口角泡を飛ばし、一方的にまくしたてて、論戦相手の話を平気でさえぎる。この日も実に51回、口を出した(クリントンは17回)のだが、そんなトランプに、クリントンは顔をしかめることもなく、終始余裕の表情だった。
2歳児か中2生をうまくあしらう母親のよう
トランプのとんでも発言に、「ほんと、この人、なんておバカなこと言っているのかしら」と目を丸くして、笑みを浮かべる姿がコミカルで笑いを誘うほど。結果として、駄々をこねる2歳児か、ワーワーと叫ぶ中2生を、うまくあしらう母親の余裕さえ感じさせ、ここでも貫録の差を見せつけられた。
「声を荒げ、大きな音で鼻をすすり、繰り返しクリントンをさえぎるトランプ」(米NBCニュース)「怒りっぽくて、明らかに準備不足の鼻ズルズルトランプ」(英ガーディアン紙)と揶揄されるほど、トランプが「アジられて」いるのは明らかだった。
トランプの話のお決まりパターンはいかにアメリカが失敗し、どん底にあるか、というものだ。犯罪やテロが横行し、企業は海外に流出、失業者が増えている、不法移民が大量に流入している。こういう状態を作ったのは、現政権、つまり、クリントン自身だろう、という論法を繰り出すわけだが、そうした機関銃攻撃に対しても、クリントンは一つ一つ、事実とは違うことを丁寧に説明していった。
トランプは事実とは異なることでも、自信をもって言い切ることで、それがいかにも真実のように思わせ、聞き手の正常な判断を誤らせるという、「ガスライティング」という話法を得意としているが、クリントン側は彼の主張すべてに対する反駁材料をすべて周到に準備してきたのだろう。失業率、経済成長、犯罪率などすべてにおいて、事態は好転していることを、データをもって、明確に示した。
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