インサイダー取引は「少額」でも逃げられない 京王ズHD株売買、60代男性が利益を得たが…

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SESCは「世の中にもしかしたら存在するであろう誤解、たとえば『比較的小規模な取引は監視の対象にならないだろう』『借名口座なら発覚しないだ』という誤解に基づいて、インサイダー取引の誘惑に負けてしまう人に対して、警鐘を鳴らす事案」と、今回の勧告の意義を説明している。

裏を返せば、今回のような小規模・借名によるインサイダー取引は、あたかも軽犯罪であるかのように広範に見過ごされてきた可能性がある。

ただ、「なぜ少額なのに今回発覚したのだろうか」という疑問は残る。SESCは「特殊な事情があったわけでなく、情報提供があったからでもなく、地道な調査の結果」と胸を張るが、これほど少額のインサイダー取引を抽出するのは容易ではないはずだ。

また、「借名口座なのになぜばれたのか」という点も不可解だ。SESCは多くを語ろうとしないが、決済資金が男性から出ていたこと、発注が男性からなされていたことがIPアドレスからわかったことなどを挙げている。

インサイダー取引は割に合わない

そして、男性はそもそも何者なのか。SESCは「公開買い付けの契約締結交渉者」という以上のことを語ろうとしない。京王ズHDの本社は仙台市、この男性も仙台市在住である。しかし、この男性が京王ズHDの役員や元役員なのかは「(個人が特定される可能性があるので)お答えできない」(SESC)という。会社関係者でなければ、大株主やアドバイザーなど金融面の手続きを支援する立場にあった者の可能性があるが、「コメントは控える」としている。

ちなみに、京王ズHDの公開買い付けは同年5月22日に成立。元々22%を持っていた光通信の保有比率は79%にまで高まり、京王ズHDは光通信の連結子会社となった。京王ズは過去の不正会計で特設注意市場銘柄に指定されていたことから、翌2015年4月には整理銘柄に指定。同5月に上場を廃止している。

SESCが開示している情報だけでは男性が誰なのかは特定できないが、関係者の間では噂が噂を呼び、今後、この男性に交渉を依頼する者は皆無になるだろう。交渉関連の仕事で得られる収入は、今回のような少額のインサイダー取引による利益よりもはるかに大きいはずだ。「濡れ手で粟」の代償は大きく、やはりインサイダー取引は割に合わないものなのだろう。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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