地震・豪雨、鉄道の災害復旧を阻むコストの壁 南阿蘇鉄道、全線再開への長い道のり
さらに、そこには南阿蘇鉄道だけの問題にとどまらない“鉄道の災害からの復旧をどうすべきか”という課題も横たわる。
災害によって不通となっている鉄道路線は全国に点在している。そのうちのひとつ、JR只見線では2011年7月の集中豪雨で橋梁3ヶ所が流失し、現在も会津川口〜只見間で今も運転再開の目処がたっていない。
復旧コストは約85億円と見込まれていたが、今月24日に開かれた検討会では、JR東日本が108億円に膨らむとの見通しを示したと報じられている。さらに過疎路線であることから復旧後も同区間で毎年数億円の赤字が予想されるという。こうした事情から、JR東日本が復旧に前向きではないのが不通が長引いている要因のひとつになっている。
JR東日本は第三セクターである南阿蘇鉄道とは違い、東証一部上場の民間企業である。復旧後も赤字を生み出すことがわかっている過疎路線に莫大な投資をして復旧させることは簡単ではないだろう。同時に、黒字企業であるがゆえに法律上国が支援することも難しい。
三重県内を走るJR名松線でも似たような状況があり、ここは地元の復旧費一部負担を条件にJR東海が全線再開に踏み切っている。ただ、これはJR東海のいわば“男気”に頼ったような部分も否めない。JR東日本でも東日本大震災で被災した山田線宮古〜釜石間について、復旧費用210億円のうち140億円をJR東日本が負担して復旧、その後は移管協力金30億円とともに三陸鉄道に無償譲渡するという“荒業”を見せているが、これも特殊な事例と言えるだろう。
運営形態が左右する被災路線の命運
つまり、被災して不通になった路線が黒字の大手事業者の路線であれば国の支援がないがゆえに復旧が難しくなり、赤字の第三セクターであれば事業者負担ゼロで復旧……ということになりうるのだ。とは言え、運営事業者が大手であろうが第三セクターであろうが、その路線が地域の足として重要であることは変わらない。
しかし、沿線の人びとの暮らしを支える公共交通機関の命運が、“どの事業者が運営しているか”や“災害の規模”によって左右されているのが現状なのだ。誤解を恐れずに言えば、犠牲者が出ず被害の範囲も狭かった災害で、大手事業者の運営する超ローカル線が寸断されたら、復旧の道は極めて困難ということになってしまう。それが現状なのだ。
そもそも、鉄道は災害に弱い。数cmレール幅が狂っただけでも脱線事故が起こるような繊細な交通機関だ。そして、日本は災害大国でもある。南阿蘇鉄道や只見線に限らず、毎年のように地震や豪雨によって鉄道路線が被災し、長期にわたって不通になっている。そして、そのたびに復旧すべきか否か、コストの負担はどうするべきかが議論されることになる。
ある大手事業者の関係者は、「災害前の対策も含め、事業者だけですべて対応することは難しい。大都市圏であっても、大規模災害が起きれば復旧を断念せざるを得ない路線が出てくるかもしれない」と話す。
いずれにしても、今後も災害に見舞われるたびに全国の鉄道路線の行く末が議論されるようでは、地域の足も守れようにないというもの。黒字か赤字か、大手か地方か、そうした事情とは切り離し、災害の中でも地域の足、産業をいかに守るかということを前提としたスキームづくりが急がれるべきだろう。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら