地震・豪雨、鉄道の災害復旧を阻むコストの壁 南阿蘇鉄道、全線再開への長い道のり
とは言え、決して経営状況が優れているとはいえない地方鉄道、そのコストを負担していくことは難しい。
「調査から復旧工事までを見越しても、数十億円はかかる。当社や地元自治体ではとてもカバーできません。国の支援をお願いしていかなければどうにもなりません」(同社)
こうした状況を受けて、南阿蘇鉄道の被災状況の調査について国は補正予算に盛り込まれた熊本地震復旧等予備費の中で約2億円の予算を割り当てた。すなわち、国が直轄して調査を進めるということになる。これに対して南阿蘇鉄道では「国が南阿蘇鉄道の復旧に前向きであるということでしょう。大きな前進、第一歩になると考えています」と話す。
「当社としては何があっても全線復旧を目指していく。この姿勢は地震直後から変わりません。地域の足を守り、さらに沿線自治体の主要産業でもある観光を守る。そのために、南阿蘇鉄道は欠かせない存在だと考えています」(同社)
「勝負のとき」を襲った地震
国鉄高森線を第三セクター化して誕生した南阿蘇鉄道は、沿線にとって欠かせない公共交通機関であると同時に、観光産業の“目玉”のひとつでもある。実際、ここ数年はインバウンド効果もあって利用客は右肩上がりで増加していたという。
「昨年度は中国をはじめとする海外からの観光客が約25万人訪れました。もちろんトロッコ列車が人気ですね。阿蘇のカルデラ内を走る列車の車窓から見える農作業に勤しむ地元の人びと。その光景が、外国人観光客にとっては極めて“日本的”な光景に映るようです。今後も外国人観光客の誘致には力を入れていきたい、そう考えていた矢先の地震でしたから……」(同社)
全国的に赤字に苦しむ地方鉄道が多い中、南阿蘇鉄道は地元自治体からの直接的な支援は受けていない。無論、純粋な黒字とはいかずに発足当時に設立した基金を頼る部分もあるものの、地方鉄道としては比較的健全な経営状況を維持してきた。
その背景にあるのが、トロッコ列車をはじめとする観光施策の成功だ。近年はインバウンド施策も功を奏し、いわば“勝負どころ”を迎えていた。そこを襲った熊本地震。関係者のショックは大きかった。
「南阿蘇鉄道がなければ、地域の観光産業が成り立たなくなる可能性もあります。トロッコ列車に乗って南阿蘇を訪れて、沿線の活性化につなげる。その循環が絶たれるわけですから……。南阿蘇鉄道がなくなれば地域が成り立たなくなる。それだけの存在だと思っています」(同社)
そのためにも、立野〜長陽間を含む全線復旧が欠かせないというわけだ。いくら長陽〜高森間での運転再開にこぎつけたとしても、JRとの接続駅である立野まで再開できなければ地域の足としても観光路線としても機能しない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら