「性犯罪の厳罰化」はいったいなぜ必要なのか 強姦罪は強盗罪よりも処罰が軽かった?
③ 親などの監護者から子に対するわいせつ行為等に関する新しい条文について
被害者の意思に反して行われる親子間の性交が、立証の困難さなどの問題から、強姦罪ではなく、より軽い児童福祉法違反(10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し、またはこれを併科)などで処分されている現状があること、また、被害者の意思に反して行われる性交等の中には、暴行または脅迫を用いることがなくても、従来の強姦罪や強制わいせつ罪に当たる行為と同様に悪質であるものが存在すると考えられてきたことから、新しい条文を設けることが提案されています。
試案では「監護者であることによる影響力があることに乗じてわいせつ」等をした場合に罰せられるとされています。試案にいう「監護者であることによる影響力があることに乗じて」という言葉の定義が十分に固められる必要があります。
たとえば、これまでの裁判では、強制わいせつ罪における「わいせつな行為」には、相手方が意に沿わないキスや裸の撮影も該当するとされてきました(もっとも相手方の反抗を著しく困難にさせる程度の暴行・強迫を用いたものに限られます。)。これらについては、一般の親子間でも問題となり得ます。そのため「監護者であることによる影響力があることに乗じて」という文言についてどのような行為がこれに当たるか議論を深めるべきである、または、特別な規定を定めずに従前どおり強姦罪や強制わいせつ罪、児童福祉法違反などの適用で対応すべきという指摘があります。
被害者の精神的負担を解消へ
④ 性犯罪の非親告罪化について
従来は強姦罪と強制わいせつ罪は親告罪(被害者による処罰を求める意思(告訴)が必要とされる犯罪)とされていますが、この趣旨は、裁判を行うことによって被害者の名誉やプライバシーが害されるおそれがあることから、被害者の意思を尊重することにあるなどといわれています。
しかし、現実には肉体的、精神的に多大な被害を負った被害者にとっては告訴するかどうかの選択を迫られていると感じられる場合があるなど、被害者に精神的な負担を生じさせていると指摘されていました。
非親告罪とすることによって、罪に問うかの判断を委ねられることによる被害者の精神的負担を解消でき、また、重大な犯罪である性犯罪が国の責任で刑事訴追できるようになります。ただし、被害者が罰しなくて良いと述べている場合に、捜査協力についての負担や、法廷における証言等の負担をかけさせてしまうおそれがあり、また、被害者のプライバシーや名誉が害されるおそれがあります。
非親告罪であっても被害者は捜査に協力しないことはできますが、刑事裁判における証人尋問について拒否すると刑事訴訟法の定めにより強制されることがあります(被告人に争う機会を保障するためにも証人尋問の機会は保障されるべきです。)。法制審議会においてもこの点は議論されていますが、十分に配慮して対策を講じなくてはなりません。
今回の性犯罪に関する刑法改正案は、国会はもちろんのこと世論の反応も先行きに影響を与えます。国民全体で議論が深まっていくのが望ましいでしょう。
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