「台湾で一番有名な日本人」の波乱万丈な人生 自衛隊やテレビ局を転々とし、台湾で開花

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日本を訪れる台湾人観光客は、その人口比率を考慮して、関係者の中でも「もうそろそろ頭打ちではないか?」と言われ続けてきた。ただ今年1~4月のデータで前年比約25%増となる138万2500人(JNTO調べ)を記録するなど、韓国、中国に続き、高い水準で推移している。台湾人の日本人気の定着化。そこには、吉田氏が日本の伝道師として日本の魅力を発信し続けていることも決して無関係ではない。

「3流は金を残す、1流は人を残す」

吉田氏が目指すゴールはどこにあるのか。それは、「いかに人を育てるか」という点に集約される。台湾では、一般的に仕事に対する考え方が日本とは異なる。

女性が現場の一線で活躍し、生活における仕事のプライオリティも高い。残業が少なく男性が家事をこなすことも珍しくなく、働き方もリベラル。そのため、転職にもネガティブなイメージはあまりなく、むしろ歓迎すべき出来事という見方も強い。筆者が驚いたのは、そんな台湾社会にあって、ジーリーメディアグループでは退職者や転職者がほとんど出ていないということだ。

中国語ができない日本人スタッフ、マーケティングやプログラミングのスキルがない台湾人スタッフ。そんなメンバーも同社の研修や勉強会で技術を取得し、主力メンバーに成長している。離職率が低いのは、台湾人の個性や考えを尊重しながらも、日本の考え方をうまくミックスさせ、浸透させることも大きな要因となっているのだろう。

今年1月には「樂吃購」が名だたる大企業を抑え、「日本経済新聞電子版賞 最優秀賞」を受賞するなど、同氏の放つ存在感は一層強まるばかりだ。取材の最後に、「上場も近いのでは?」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「僕は上場がゴール、みたいな考え方がどうも苦手で。若手の経営者と集まって、そんな話になっても興味が持てないんです。もちろん最低限の利益追求はしますが、実現したい理想もあるので、利益の目的化はしません。僕が好きな言葉で、『3流は金を残す。1流は人を残す』というものがあります。従業員がやる気を持って頑張ってくれて、僕は早めに帰りお酒を楽しむ。そんな生活ができれば理想的ですね」

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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