新登場の「人身事故保険」は鉄道会社を救うか 事故が多発する現状では保険料は高止まり?

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そこで、いくつかの鉄道事業者に対してこの保険に加入するかどうか聞いてみたところ、「現時点では具体的な検討はしていない。保険会社から説明等があれば、想定されるリスクや費用対効果を踏まえて検討することになる」(JR東海)、「保険の内容は新聞記事で知っている程度。今は情報収集をしている段階」(小田急電鉄)、「保険会社から話がきた段階で検討する」(東京メトロ)といった回答が返ってきた。現段階では各社とも様子見のようだ。

一方、「どのような内容なのか、まずは話を聞いてみたい」(ひたちなか海浜鉄道)という声もあった。規模の小さい同社にとって毎年の保険料は確かに負担だが、経営を揺るがしかねない巨額損失リスクへの備えも合わせて考えたいというわけだ。

個人向け保険でもカバーできる

保険で人身事故リスクを減らすことはできるか(撮影:尾形文繁)

ところで、認知症などで責任能力のない人が人身事故を起こした場合については、最近は個人向けの保険でも補償が受けられるように制度が変更されている。

たとえばあいおいニッセイ同和損保は「個人賠償特約」を、三井住友海上火災保険は「日常生活賠償特約」を、それぞれメインとなる自動車保険などの保険に付保する特約として販売している。両社の特約の内容は、他人を死傷させたり他人の財産に損害を与えたりした際に保険金を支払うというものだ。

これまでは補償対象者を被保険者やその配偶者、同居親族などとしていたが、認知症患者など責任無能力者の場合に限って、監督義務者や親権者を新たに追加した。東京海上日動火災も「個人賠償責任補償特約」の対象を10月から同様に拡大するという。つまり、前述の愛知県大府市の事故も今後は個人保険でカバーできることになる。鉄道事業者と遺族の間で裁判ざたになるような不幸な事態も今後は避けられるかもしれない。

むろん、保険に加入することが決して根本的な解決ではない。鉄道事業者も利用者の側も、事故を起こさない努力をするのが大前提である。だが、それでも事故は防げないとしたら、その備えとして、保険という手段があることを頭の片隅に残しておいても損はない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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