前途多難な中国の行政改革 国の権限移譲進めるが、「安全運転」目立ちスピード不足

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これらの改革により、共産党支配の足元を揺るがしかねない腐敗・汚職の余地を制度的に狭めていこう、というのが新政権の考えだ。

行政手続きの多さ、煩雑さが経済活力を失わせかねないとの警戒感も強まっている。生産年齢人口減少時代を迎え、「人口ボーナス」が失われるなか、「改革ボーナス」を自ら作り出さなければ、経済の失速は免れ得ないとの認識が新指導部にはあるからだ。

中央委員会全体会議での具体的な改革案に注目

ただし、「機能転換」の推進は既得権益を奪うことにもなる。強い抵抗も出てくるだろう。他方で、単に規制緩和を行うだけでは不十分でもある。中国政府はマクロコントロールの手段として、投資、生産・営業活動などに対する許認可権を利用してきた。それだけに、規制緩和と同時に、金融改革と金融市場の整備を進め、金利を主体とするマクロコントロールが行いやすい体制を作っていかなければならない。

地方政府への権限委譲も行われる予定だが、地方政府の行動をどのようにモニタリングするかも重要な課題だ。公正・公平な行政訴訟制度の充実も、政策の実効性を高めるうえで必須である。いずれも難題だ。改革には「勇気・知恵・粘り強さが必要」(李克強首相)である。

「安全運転」を指向するのは当然だが、慎重になりすぎて低速走行を続けていると、より速い変化を求める世論の圧力、経済構造転換の圧力に押し潰されることにもなりかねない。次の大きな会議は、今年秋に開催予定の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議だ。そこで新指導部がより具体的な新たな改革案を提示し、政策運営のギアをシフトアップできるかが注目される。

 

伊藤 信悟 国際経済研究所主席研究員

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いとう・しんご

1970年生まれ。東京大学卒業。93年富士総合研究所入社、2001年から03年まで台湾経済研究院副研究員を兼務。みずほ総合研究所を経て18年に国際経済研究所入社。主要著書に『WTO加盟で中国経済が変わる』(共著、東洋経済新報社、2000年)、主要論文に「BRICsの成長持続の条件」(みずほ総合研究所『BRICs-持続的成長の可能性と課題-』東洋経済新報社、2006年)、「中国の経済大国化と中台関係の行方」(経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series』11-J-003、2011年1月)など。

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