個人が日本語に新語を付け加える現代 ネットで生まれ、リアルに進出してきたDQNの事例

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「ヌーベル反社会層」あるいは「DQN(ドキュン)」

DQNとは人の迷惑を省みず、反社会的な行動を見せる若年層のこと。

この「ドキュン」という音自体は、かつて放映されていたテレビ番組「目撃!ドキュン」をルーツとします。

しかし1990年代後半に活動していた、学歴差別を趣旨とするあるサイト(バカバカしい内容でした)の運営者が、このドキュンを侮蔑的に用い、それがきっかけで現在の語義を獲得してしまいました。

そのサイトは訪問者の反感を買うことが多く、やがて消えていきました。しかし「ドキュン」の用法は残り、DQNと記号化され、現在ではルーツを離れ独自の生命を保っています。

なぜこんな出来事が起こったのでしょうか。サイト運営者にセレブのごときカリスマや、マスコミに匹敵するようなメディア力があったのでしょうか。私はそうは思わず、この人物が「すでに社会の中にあった無形の欲求を、偶然、形にしてしまったのだ」と考えています。

DQNというスラングが広まった背景には、従来の「ワル」や「不良」、「ヤンキー」では表現しきれない新しい反社会層の台頭があった。

かつての社会では国や会社、学校という「秩序の担い手」が堅牢だった。少なくとも堅牢に見えた。また社会の規範も今より厳しく、たとえば現在では「嫌になったら離婚する」のがごく普通の判断となりましたが、昔は世間体など、いろいろと気にすることがあったものです。

「ワル」や「ヤンキー」といった言葉には、どこかにそうした秩序への「反逆者」というニュアンスが、建前としては、ありました。

しかし現代では、国も会社も学校もその弱さを露呈し、規範も薄れてしまった。この時代において「ワル」は、もはやただ自己の欲望を制御できない人々でしかありません。

そうした「ヌーベル反社会層」を指す言葉を、現代は欲していた。その無形の欲望を「DQN」は言い当ててしまい、だからこそこの言葉が、今ではリアルや、さらには創作物の中でも使用される日本語になっていったのだと感じます。

DQNという言葉はその語義も現代的であるし、その発生と定着もネットが普及した現代ならでは。まさに「注目のキーワード」です。

 

 

【初出:2013.3.23「週刊東洋経済(入門日本経済)」】 

(担当者通信欄)

人口に膾炙していく言葉と、そこに到らず消えていく言葉、何が違うのでしょうか。「草食系」以降登場した、ほかの各男子はそれほどの存在感を示さなかったような……。はやらすぞ!という、どこかからの意気込みを感じると、つい引いてしまったりするものですが、時代の気分を言い当てることで、日本語をより豊かに拡張できるとしたら、それに夢中になるのも無理のないことかもしれません。

さて、堀田純司先生の「夜明けの自宅警備日誌」の最新の記事は2013年3月25日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、最新スマホ活用術)」で読めます!
【電子書籍はリアルの合わせ鏡である(現状は)】
結局まだ、紙の本として売れたものが電子書籍でも売れているにすぎない?これからの電子書籍の世界はどうなるのか?混迷の電子書籍業界に思えても、新しいスキームがあれば、新たな購読習慣が生まれ、雑誌は再び電子でよみがえれるかもしれない!

 

堀田先生の近刊紹介。中年の青春小説『オッサンフォー』(講談社、2012年)。詐欺師四人組が大阪を舞台に繰り広げる事件も、ぜひ本コラムとごいっしょに♪

 

大好評、堀田先生主宰の電子雑誌「AiR3」(2012年リリース)。漫画家、作家、研究者、ジャーナリスト…豪華執筆陣にも大注目です!  

 

実は哲学ってライトノベルで入門できます。たとえば、金髪はの子がデカルト。『僕とツンデレとハイデガー』(講談社、2011年)

 

堀田 純司 作家

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ほった じゅんじ / Junji Hotta

1969年3月8日、大阪府大阪市生まれ。桃山学院高等学校を中退後、大検を経て、上智大学文学部ドイツ文学科卒業。漫画誌編集者などを経て自身の著作を発表するようになる。文芸、科学、社会問題、メディア、ポップカルチャー等々、幅広く関心を持つ。著書に“中年の青春小説”『オッサンフォー』(講談社、2012年)、『僕とツンデレとハイデガー』(講談社、2011年)、『人とロボットの秘密』(講談社、2008年)などがある。編集者としても『生協の白石さん』(講談社、2005年)などのヒット作を手がけている。2010年には各分野の書き手とともに「作家が自分たちで作る日本で初めての電子雑誌」『AiR(エア)』を刊行し注目を集めた。続く『AiR2(エアツー)』(2011年)、『AiR3(エアスリー)』(2012年)も好調に刊行。
⇒【Twitter(@h_taj)

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