アメリカ次期大統領に組織管理能力はあるか−−ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授


指導者に必要な組織管理能力とは

ブッシュ政権では強烈な個性を持った若手スタッフが加わったことで国家安全保障会議のシステムが歪められ、情報の流れが遮断されてしまった。コリン・パウエル前国務長官の首席補佐官だった人物は、正式な意思決定過程が歪められてしまったことで事実が隠蔽されてしまったと語っている。ホワイトハウスで働いたことのあるウェイン・ダウニング将軍の言葉を借りれば、各省間のコミュニケーションシステムは不活発で機能不全に陥ったため、米国政府は問題を解決するために巨大な力を発揮する能力が損なわれてしまったのである。

マネジャーとしての指導者に必要な組織運営のスキルと組織の効率的な運営とは別物だ。そのスキルは階層的な官僚組織に限定すべきではないし、社会運動の指導者も、情報の内外への流れを管理しなければならない。広い意味で、組織運営とは、意思決定を行い、決定事項を確実に実施する指導者の能力のことである。実行力は効率性よりも重要なのだ。

フランクリン・ルーズベルト大統領が運営していたのは、管轄と責任が重複する非効率な組織だった。それは費用がかかるが、同大統領は複数で互いに競合する情報の流れが存在することを重視していた。大統領にとって、スタッフが勝手に判断をし、情報を独占するということは決して考えなかった。大統領は閣僚であれ、議員であれ、新聞のコラムニストであれ、友人であれ、誰からでもアドバイスを求めたといわれている。

ドワイト・アイゼンハワー大統領は効率的に組織された大統領府に支えられ、指導力に欠けると思われていた。しかし、後に歴史家は最も重要な決定の背後で同大統領が隠れた影響力を行使していたことを発見している。ロナルド・レーガン大統領は、権限の委譲を極端にまで行っていた。権限委譲は優秀なチームの下では機能する。しかし、ドナルド・リーガン首席補佐官、ジョン・ポインデクスター安全保障担当補佐官、オリバー・ノース元海軍中佐が権力を握ったとき、壊滅的な状況(訳注-イラン・コントラ事件)をもたらした。レーガン大統領はビジョンを語り、コミュニケーション能力で優れていたが、マネジャーとしての指導力に欠けていた。

大統領予備選挙に立候補している3人の上院議員を見ていると、マケイン議員は軍事的な経験があるが、司令官というよりは戦闘機の操縦士である。クリントン議員はホワイトハウスでの意思決定を身近で見てきたが、意思決定者ではなかった。オバマ議員は海外での生活経験やシカゴでの地域活動の組織者として働いた経験があるが、行政府での経験がない。全員が人々を引き付ける“ソフトパワー”を発揮しているが、彼らがマネジャー的な指導者かどうかはまだ判断できない。

ジョセフ・S・ナイ
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

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