中国は、なぜウーバーを叩きだしたのか 「郷に従えない」企業は生き残れない
アジアで働いてきた25年間、私の頭の中にはつねに、ある旅行ガイドの忠告があった。キックボクシング(ムエタイ)が国技であるタイでは、決して喧嘩をしないこと。喧嘩に飛び入りする地元の人の頭にあるのは、誰が正しいかではなく、誰がタイ人なのかということだ。この忠告は、中国本土でのビジネスを考える欧米人によく当てはまると思う。
3年前に意気揚々と上海に乗り込んだ米配車アプリ大手ウーバーテクノロジーズが経験してきたことは、欧米人が本当の勝率を理解せず喧嘩を売った好例だ。ウーバーのトラビス・カラニック最高経営責任者(CEO)は、成功する見込みなどなかった市場に切り込むため、投資家から調達した20億ドルもの資金を使い切った。これは、他人の金を使って勝算が100分の1の賭けに手を出すという、ベンチャー投資家の病的な部分を露呈した。
中国のウーバーのドライバーは、相場の3倍の給与を受け取っていた。注文にはでっち上げもあったというのだから、これは大したお年玉だ。
中国IT企業からの強い逆風
ウーバーが8月初めに、中国での配車サービス最大手、滴滴出行に事業を売却して、どんちゃん騒ぎから撤退すると発表したことは、中国の人々の滴滴に対する支援ぶりからすれば、驚きではない。
滴滴に出資している中国企業には、メッセージアプリ「ウィーチャット(微信)」を展開するテンセントや、オンライン販売大手「タオバオ(淘宝)」を傘下に持つ持つアリババなどがある。
滴滴のチェン・ウェイ(程维)CEOが昨年のスピーチで明らかにしたところでは、テンセントのポニー・マー(馬化騰)CEOに比喩的な意味で、カラニック氏を「完全に打ち負かせ」とけしかけられた。また、アリババのジャック・マー(馬雲)会長からは「帝国主義はこけ脅しに過ぎないから、数年間引きずれば自ずから問題にぶち当たる」と言われたという。