東洋ゴム株「インサイダー取引」の根本原因 公表が遅いことが不正の温床になっている
公表直前の3月13日午前10時22分頃から、インターネット株取引で、保有していた東洋ゴム株全株(2500株)のうち1100株を2775円で、700株を2776円で、500株を2777円で、200株を2778円で売り抜けた。売却総額は693万9800円で、平均単価は2775円。
東洋ゴムが性能偽装を公表した3月13日は金曜日なので、その情報が株価に反映されたのは翌週明けの3月16日月曜日だった。東洋ゴム株の始値は前週末終値より500円安い2271円でストップ安。同日終値は2424円で、東洋ゴム株はその後3日連続して下げ、同月18日には2307円をつけた。23日までいったん持ち直したが、24日に下落に転じると、26日には2107円まで突っ込んだ。
金融商品取引法175条では、課徴金の金額を「重要事実が公表された2週間以内で最も低い株価に株数をかけた額」と「実際に売買した額」の差額と定めている。
3月26日の2107円に2500株をかけると526万7500円。これを売却総額693万9800円から引いて、監視委員会は課徴金額を167万円と計算した(同法176条の規定により1万円未満は切り捨て)。
公表遅れがインサイダー取引の温床に
東洋ゴムの性能偽装では、発覚から公表まで1年以上かかったことが問題視されてきた。企業不祥事の公表が遅れれば、それだけ関係者の間でインサイダー情報が拡散し、違法なインサイダー取引が行われる温床となる。
監視委員会は「そもそも東洋ゴムの性能偽装の公表が遅れたことが問題」と指摘する。監視委員会は「(東洋ゴム化工品の社員も納入先への)伝え方を(インサイダー取引を誘発しないように)もっと工夫すべきではないか」とも指摘する。その一方で、「法令・ルールで、公表が遅れた主体(この場合は東洋ゴム工業)をとがめるのは難しいのではないか」とさじを投げる。
東洋ゴムの性能偽装で一次情報を取得した者は、納入先など複数いるが、日本取引所の自主規制法人からの情報を得て、課徴金命令勧告に至ったのはこの1件のみ。A氏のほかに、インサイダー情報を得て東洋ゴム株を公表前に売却した者はいない、というのが監視委員会の結論で、東洋ゴムの性能偽装に絡むインサイダー取引の調査は、これで終了するという。なお、A氏が容疑を認めているかどうかを、監視委員会は明らかにしていない。
偽装を行った企業のインサイダー取引で課徴金納付命令を勧告するのはこれが初めて。監視委員会は今回の件を皮切りに、ほかの偽装絡みのインサイダー取引への調査を進める意思を「特定企業名はともかく、一連の偽装事件について、嫌疑があれば調査をしていく」と、明確に示している。
企業による偽装は、燃費不正をしていた三菱自動車やスズキ、マンションの杭工事データ偽装問題で行政処分を受けた旭化成建材、日立ハイテクノロジーズ、三井住友建設など、近年増えている。偽装を事前に知り、偽装をした会社の株を公表前に売り抜けた事例は少なくないとみられる。
株価が上がりそうな情報を得て株を買うインサイダー取引は、情報を得た者なら誰にでも機会がある。しかし、株価が下がりそうな情報を得て株を売るインサイダー取引は、すでに株を持っている者に限られる。前者が値上がり益を目的とするのに対し、後者は損失回避が目的だ。
課徴金納付命令の過去の事例を見るかぎり、「損失回避型」は今回が初めてではない。だが、これまでインサイダー取引の摘発は「値上がり益目的型」が中心で、損失回避型の件数は少ない。そんな中、偽装の情報を得て売却するケースは、損失回避型のインサイダー取引として構図が比較的明快なので、今後、摘発が相次ぐ可能性がある。
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