「90歳の英女王」が生前退位できない事情 王女時代にした約束は、あまりにも重い
エリザベス女王の夫であるフィリップ王配の問題もある。彼は95歳の今まで誠実に女王を支えてきたが、健康状態は不安定だ。王室伝記作家を長く務めてきた家系の出であるスティーブン・ベーツは、王配の死が女王の退位につながる可能性を指摘した。
だが、女王は、自身の高祖母にあたり、1861年に夫であるアルバート王配を亡くした後も40年間女王を務めたヴィクトリア女王を意識しているだろう。
いささかおかしなウェブサイトは、女王がウィリアム王子に王位を継がせる秘密協定があると伝え続けている。また、英国が欧州連合(EU)を離脱しない場合には第三次世界大戦が起こる、と「軍の上層部」に警告され続けてきたため、女王は国を離れねばならないかもしれない、という。
きちんとした情報元や、少なくとも内情に通じるところは、女王は退位しないとの見方を示している。女王に関するコメントに臆病なほど配慮しているBBCは、女王は存命中には退位しないだろうと報じる危険を冒した。
女王の21歳の誕生日の英連邦向けメッセージを思い起こしてみよう。「私は国民の前で、生涯を、それが長くても短くても、国民に対する職務に捧げることを宣言します」
これは完全な宣誓だ。そして彼女はこのときまだ女王ではなく、ただの王女だった。
非常に貴重な真珠
女王が仮にこの約束を無視するとしても、この頃は結束を欠く英国の支配層も国民も、女王の続投を強く望むようになっている。女王は国民に対して大いなる愛情を抱いており、長い間、忠実に儀式や議会の開会式などの国事行為をとり行っている。これらはすべて、偉大さと継続性を感じさせるものだ。
極左であるジェレミー・コービン労働党党首が支持率低下に苦しむ最大の理由は、おそらく彼が国歌「女王陛下万歳」を歌うことを最初に拒否したことだ。
支配層にとって、女王は現在、非常に貴重な真珠なのだ。
国民投票でEU離脱派が勝利したのに加え、スコットランド国民党が独立の是非を問う再度の住民投票実施を要求していることから、英国は神経質になり、政治は熱病を起こしている。首相が辞任し、革命の指導者のような人物同士が対立して国家の統一が危機にさらされ、多くのエコノミストが景気後退予測を出したのに対し、バッキンガム宮殿の小さな老貴婦人は、少なくとも公には動揺することはなかった。