歴史が示唆する「英国EU離脱」本当の方向性 現代を生き抜くヒントはむしろ過去にある

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歴史をもっとさかのぼると、欧州大陸の両岸に位置する英仏両国は、1786年、英仏通商条約(イーデン条約)を締結した。この条約で、フランスがイギリス工業製品の輸入を認め、フランス工業は打撃を受け、フランス革命の一因ともなったといわれている。1860年にも両国は英仏通商条約(コブデン=シュバリエ条約)を結び、フランスは保護貿易から転じ、ナポレオン3世がイギリスの自由貿易を受け入れた。ともに自由貿易を推進する画期的な条約だった。数百年の歴史を見ても、自由貿易・自由経済を指向する流れがはっきりとしている。

イギリスのEU離脱で一時は金融市場も大混乱したが・・・(イラスト:RichR / PIXTA)

歴史家である川北氏は、「EUに加盟した73年当時、イギリスには3つの選択肢があるといわれていた。1つ目は大英帝国の栄光を追求する道であり、2つ目は欧州とは距離を置き、米国との特別な関係を結ぶというもの。しかしどちらも実際にはあり得ない選択であり、3つ目の欧州との関係強化を選んだ。そのときよりもイギリスと欧州各国との関係が深まっている中、イギリス経済が欧州共同市場との関係なしには成立しえない」と述べる。

イギリスは欧州を求めている

イギリスのEU離脱は決定されたことであり、ひっくり返されることはない。しかしイギリスは欧州を求めているのであり、欧州との関係を決定的に悪くする政治的、経済的なメリットはほとんどないと見てよいだろう。イギリス政府のEU撤退交渉は限りなく難しい交渉であるが、イギリスは欧州なしには存在しないという交渉のベースラインははっきりしている。過激な発言で離脱派の支持を集めた政治家も、今後は妥協すべき点、譲歩できる点を探ることになるだろう。イギリスと欧州との歴史は、まさにそう示唆しているように映る。

週刊東洋経済は8月13日/20日号(合併号)で『ビジネスマンのための世界史』を特集。混迷の現代を読み解くには世界史の知恵が必要だ。

しかし、もちろん過去の歴史をたどれば、将来を見通せるわけでなない。イギリスのEU離脱も、多くの人にとって想定外であったからこそ、世界を困惑させることとなった。歴史をたどれば冷静に事態を見つめることができるのも事実である。

経済界有数の歴史通であり歴史に関する著作も多い、ライフネット生命保険の出口治明会長はこう語っている。

「将来、世界で何が起きるかは誰にもわかりません。しかし、それに備える教材は過去にしかないのです。歴史を学ぶ意味は、人間がこれまでやってきたことを後からケーススタディとして学べるところにあります。歴史には5000年を生きてきた人間の豊穣なケース(事例)がつまっています。」(『「全世界史」講義Ⅱ』より) 

出口氏は「今こそ世界史の知恵に学べ」と力説する。「人間の脳はこの1万数千年、変化していないといわれている。喜怒哀楽も政治判断や経営判断も、昔の事例がきっと役立つはずだ」と述べる。物質文明が限りなく進歩したが、人間の判断がそれによって限りなく賢くなったわけではない。歴史を学び、現代に生かすことの重要性はいっそう高まっているといえるだろう。

長谷川 隆 東洋経済 記者

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はせがわ たかし / Takashi Hasegawa

『週刊東洋経済』編集長補佐

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