巨人の星、インドで人気の理由 講談社の仕掛け人、古賀義章氏に聞く
――講談社は出版元ですものね。コミックを販売する方法もあった気がしますが。
実はそれが難しいんです。インドには昔からアマール・チトラカタ、略して「AMK」といって、神様を主人公にしたコミックシリーズがあります。日本円にして1冊50~100円で買えます。一方、『のだめカンタービレ』など、いくつかの日本コミックが現地で売られていますが、海外で印刷した輸入品のため、1冊1000円くらいしてしまいます。
ほかにもAMKはカラー印刷なのに対し、日本のコミックはモノクロ、右開きと左開きの差という問題もありました。
それならアニメから入ろうと。昔『セーラームーン』が欧州ではやったときにも、アニメからだったという前例もありますしね。
原作者サイドは快諾
――原作者サイドはどんな反応でしたか。
大胆なリメークですから、社内でも最初は難しいと言われました。ところが原作者・梶原一騎先生の奥様である高森篤子さんの元に伺うと、快諾してくださった。作画を担当された川崎のぼる先生も「面白い。巨人の星がインドでよみがえる」と喜んでくださって。ひとつだけ、「明子姉さんを、とにかくきれいな人にしてほしい」という注文をいただきました。
アニメ制作をお願いしたのが、現地最大手のDQエンタテインメント(DQE)です。DQEには社員が3500人もいます。ディズニー作品も手掛けており、『ジャングル・ブック』も制作しました。日本での制作会社は、『巨人の星』を作ったトムス・エンタテインメントにお願いしました。日本側はプロットと基礎的なデザインを担当し、デザインの細部や音楽はすべてインド側に任せることにしました。
主人公はムンバイのドビーガード(洗濯街)に住む貧しい少年スーラジです。スーラジとは太陽の意味で、インド人に比較的多い名前です。クリケットの才能があり、父親と二人三脚で選手を目指すという筋立ては本家とほぼ同じです。花形満や伴宙太、左門豊作に相当する人物も出てきます。
ただ、細かい内容については予想以上に交渉が必要でした。
『巨人の星』といえば欠かせないちゃぶ台返しのシーンは、インド側から最初はダメだと言われました。食べ物を粗末にはねのけるなんてことは、インドでは到底許されないというのです。ただ、父親の怒りを表現するのには非常に効果的なので、粘り強く交渉した結果、食べ物ではなく飲み物ならいいという話になりました。