7月に入ると北朝鮮はミサイルの発射実験をさらに行っている。むしろ活発化させた印象だ。
韓国と米国が高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」の在韓米軍への配備を7月8日に発表すると北朝鮮は激しく反発し、その翌日、東岸の咸鏡南道新浦(ハムギョンナムドシンポ)沖の海上で潜水艦から発射する弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行った。
さらに19日には、南西部の黄海北道(ファンヘプクト)黄州(ファンジュ)付近から弾道ミサイル3発を日本海に向けて発射した。韓国軍や米戦略軍の分析では2発が短距離弾道ミサイル「スカッド」で、1発が中距離弾道ミサイル「ノドン」だった。まさに次々に打ち上げている状態だ。
なぜ国連決議を無視し、ミサイルの実験を?
北朝鮮はなぜ国連決議を無視して執拗に核やミサイルの発射実験をするのだろうか。
ミサイルについてはTHAADの配備が原因だとする見方もある。北朝鮮はその配備発表に際して、「物理的な対応をとる」と物騒な発言をしており、実際にこれへの対抗なのだろう。しかし、現実問題としては、THAADによって北朝鮮の軍事能力が大幅に制約されるわけではない。
たとえば、THAADは北朝鮮のミサイル攻撃から韓国の首都ソウルを防衛できるか疑問だ。ピョンヤンからソウルまでは直線距離で約200キロ、ノドンが発射された平安南道の粛川とソウルの距離は300キロに満たない。この短い距離では秒速8キロにも達する弾道ミサイルは発射されてからわずか40秒以内でソウルに到達する計算になるので、THAADはソウルを防衛するのに本当に役立つか疑問なのである。
THAAD配備の主眼は高性能レーダーの設置に狙いがあるという見方もあるが、それが北朝鮮にとってどのくらい深刻な問題になるのか、明らかではない。少なくとも、「THAADが配備されなければ北朝鮮はミサイルの発射実験を止める」とは、とても思えない。要するにTHAADはその程度の問題であり、北朝鮮は韓国や米軍を非難するための口実に使っていると考えたほうがいいだろう。
北朝鮮は、韓国の北朝鮮政策全体を問題視し、反発している面もある。韓国は昨年末以来、日米両国との関係を緊密化し、北朝鮮には厳しい姿勢を見せてきたからだ。もっとも、その原因は北朝鮮にあるのであり、いわば自業自得なのだが、北朝鮮は、朴槿恵大統領が北朝鮮に挑戦的な姿勢をとっていると非難している。
しかし、韓国の北朝鮮との対決姿勢がミサイル発射実験の理由なのではない。北朝鮮は韓国を口汚く批判するが、韓国がどのような姿勢で臨むかには関係なくミサイルの発射実験を続けるだろう。
北朝鮮が必要としているのは、一言でいえば、「国家の安全の確保」である。この問題が解決しないかぎり、核兵器とミサイルは放棄しないことは、残念ながらますます明らかになっている。北朝鮮の国家としての安全を確保する、という問題は中国にも解決できない。中国はすでに北朝鮮との国交を結んでいる、つまり互いに主権国家として承認しあっており、これ以上のことはできない。
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