ライバルたちの動きを見て、大迫はさらにギアを入れ替える。その差は一気に広がった。ラスト1周は独走状態でトラックを駆け抜けて、28分07秒44という好タイムで初優勝。後続に9秒以上の差をつけた。
「今までより練習はできていて、昨年のように疲れがある状態でもなかった。やっと万全な状態で臨めましたね。米国でやってきたことが、ようやく結果として現れたかなという感じです」
精神的な成長
優勝した今年は多少の興奮状態は感じられたものの、取材時の表情は昨年までとほとんど変わらなかった。冷静に自分を見つめて、話していたように思う。レースの勝因を尋ねると、大迫からは、こんな答えが返ってきた。
「スピードがついたこともありますが、メンタル的にしっかりと気持ちをためられるようになったんです。これまでは抑えきれずに行ってしまうところがあったんですけど、今回は勝負どころまでしっかり我慢できた。精神的な成長がレースにつながったと思います。4年間ずっと目的意識をもってやってきました。特に今年は日本選手権のレースをイメージして取り組んできて、その考えていた時間の長さが勝因かなと思います」
一方、ラスト勝負で敗れた村山紘は、「悠太さんのスパートに反応した瞬間、大迫さんをマークするという考えがポンッと飛んでしまいました。無駄な力を使ってしまって、大迫さんのスパートに対応できませんでしたね。もう少し冷静に行くべきでした」と、自分を抑えることができなかった。
1万mの2日後に行われた5000mでも大迫は圧勝する。徐々にトップ集団の人数が削られていくなか、大迫が動いたのは残り500mだった。初めてトップに立つと、そのまま独走。鮮やかなラストスパートを見せて、13分37秒13で完勝した。
「1万mで力強いレースを見せることができたことがプラスアルファの力になったのかなと思います。1万mよりも落ち着いて、段階的にスパートできましたし、5000mの方が勝ちやすかったです」
このレースですごかったのは、大迫はすでにリオ五輪の戦いをシミュレーションしていたことだ。
「リオ五輪の予選を想定して、ラスト500mから前に行き、自分で上げられるところまで上げることを意識していました。誰も後ろについていなかったので、最後は余力を残した感じになりましたけど、徐々にスピードを上げていけたことが、昨年とは違うところかなと思います」
1歩先をゆく姿勢を見せた大迫。5000mと1万mは慌てる場面がなかった。途中のペースチェンジをゆったりと対応して、無駄な力は使わない。最後に力を出すだけで、両種目とも簡単に勝ってしまった。そのレース運びには“王者”のオーラが漂っていた。
「スピードとスタミナもつきましたが、メンタルの部分でも余裕を持って走れるようになったことが大きな成長かなと思います。途中、前に行かれても、落ち着いて、時間をかけて追いつくことを想定していました。昨年の北京世界選手権はあと1歩で決勝を逃しましたが、レース戦略という部分では、なんとなく臨んでいました。でも、今年はすべてのレースにおいて目的を持って走っているので、そこが違うと思います」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら