養護施設から2~3年に1人、成績優秀な児童が現れる。トップ公立高校に進学した児童を会報などで大々的にアピールし、大学に進学させるというのが意識の高い職員たちの大きな目標とモチベーションになっていた。
「施設の先生たちには何度も大学進学を勧められたけど、奨学金って借金じゃないですか。今思えば先見の明があったけど、就職できる保証もないのに借金するのはまずいって直観的に思って、だから進路は工業か商業高校に行きたいって希望した。けど、トップ高校に行けという圧力が強くて、滑り止めに私立を受けることで納得してもらいました。与えてもらってなんだって話だけど、やっぱり施設の先生と私たちには大きな溝がありました」
児童養護施設の職員は、福祉職の中では人気だ。希望者が多く、毎年春になると、福祉大学や福祉学科を卒業した目をキラキラさせた若者たちが、“恵まれない子供たちを助ける”というモチベーションで入職してくる。
「みんな育った家庭も円満で、経済的にも精神的にも余裕がある人たち。だから、つねに違和感はありましたね。結局、心の底でかわいそう、哀れな子って思われているのがわかって、最後の最後まで心を開くことはなかった」
施設の仲間はみな依存してくる
部屋に来て、1時間半くらい経っただろうか。彼女のiPhone6が鳴った。話をやめて画面を眺めると心から嫌な表情になる。「うーん」と顔をしかめてうなり、結局、電話に出ないで着信を切った。かかってきた電話番号を着信拒否に設定している。電話の相手は、養護施設で一緒に暮らした同級生だった。
「施設のときに知り合った人で、今も関係が続いている友達は1人もいないです。この電話の子が最後です」
携帯を操作しながら、冷たくそう言う。
「とりあえず私は普通に生活できるようになりましたけど、いろんな意味で依存される。精神的に経済的に頼られる。施設の子は中卒か高校中退が多いから仕事がない、結婚しても長続きしない。ほとんど全員が普通の生活ができていないです。“保険証を貸して”ってしつこく頼まれたり、毎日電話がかかってきて“死にたい、死にたい、死にたい”って何時間も泣かれたり。そこまで背負いきれないし、付き合えない」
平田さんは、高校進学と同時にコンビニとファミレス、ティッシュ配りなどのアルバイトを始めた。養護施設は高校卒業で退所しなくてはならない。身ひとつで退所となるので、おカネがなければホームレスとなる。施設の子供たちは高校生になると、部活には入らず、3年後に必ずやってくる独立に向けてアルバイトをする。
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