高校野球の存続脅かす「審判」という時限爆弾 必要人数のべ1.6万人!なり手は年々減少

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こうした事情から、これまで審判委員の多くは比較的休暇の取りやすいとされる公務員や自営業の人たちが務めてきた。ところが、いわゆる行革の影響で地方公務員は20年前に比べて54万人も削減され、さらに自営業者の数もほぼ半分に減少した。そうした影響もあり、若手を中心に審判のなり手が年々少なくなってきているのである。

それなら若いころに審判をしていて、多忙を理由に辞めた人のなかから、すでに仕事の第一線を退いている人に声を掛けたらどうかという考えもあるだろうが、審判という任務は中断してしまうとなかなか現場復帰が難しいそうだ。審判の技術向上のためには継続性が何よりも重要なのである。

審判の若返りを目指す日本高野連は55歳定年制を奨励しているが、地域によってはそれでは審判が集まらず、高齢の審判に頼らざるを得ないところも出てきている。経験豊富なベテランということで頼りになる存在ともいえるのだが、実際のところ、年齢による衰えはかなり深刻だという。

たとえば、高齢の審判のなかには、動体視力が落ち、変化球の軌道が追えない人もいるという。こうなると、同じ投球であってもストライクになったりボールになったりと、判定にばらつきが生じることになる。

これは現場の監督にとってはたまったものではないだろう。「地方大会の審判をなんとかしてほしい」(某高校野球部監督の話)との声が出るのもやむを得ないと言えそうだ。

人生を左右するボランティア

高校野球は徹底したアマチュアリズムをうたっており、その関係者が野球から報酬を得ることは固く禁じられている。選手である高校生はもちろんのこと、野球部の監督やコーチ、審判、高野連の理事も無報酬である。

おカネのためではなく、野球そのものを楽しもうという精神は尊重すべきだろう。とはいえ、選手や監督のなかにはアマチュアリズムに徹しきれない人たちも一定程度はいる。それは、卒業後のプロ入りや野球推薦による大学進学などを目指す高校生や、甲子園出場が至上命題となっている私立高校の野球部監督などである。

彼らにとっては、審判の判定はその後の人生を左右しかねないわけで、“ボランティア感覚”でやられてはたまらないだろう。

トーナメント方式による高校野球は、崖っぷちの一発勝負であるがゆえに、これまで多くの人間ドラマを生んできた。そのなかにあって、目立たない存在ではあるけれども、ボランティア審判委員は“舞台監督”としてそのドラマを取り仕切ってきたのである。

こうした審判の働きに注目しながら試合を見るのも、高校野球の楽しみ方のひとつといえるのではないだろうか。

中島 隆信 慶應義塾大学商学部教授

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なかじま たかのぶ

1960年生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は応用経済学。著書に、『新版 障害者の経済学』『高校野球の経済学』『お寺の経済学』『大相撲の経済学』(以上、東洋経済新報社)、『経済学ではこう考える』(慶應義塾大学出版会)など。

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