ソニーの変貌 北米市場で激安テレビ投入
薄型テレビの巨大市場である北米で、ソニーが発売した新製品が家電業界に波紋を広げている。
話題を集めているのは、同社が5月から売り始めた廉価版の液晶テレビだ。現在、北米における40インチの高精細フルハイビジョン機種の相場は、有名ブランドの安い機種でも1400ドル以上。ところが、今回ソニーが投入する製品は40インチが1199ドル(約12・5万円)、46インチでも1599ドル(約16・7万円)という格安の設定だ。従来、安さを売りにした無名ブランドとは5割以上の価格差があったが、2割程度にまで縮めた。
業界関係者らが一様に驚いたのも無理はない。何しろ、北米における「SONY」のブランド力は断トツで、他社製品より値段も高いというのが常識だった。そのソニーが廉価版とはいえ、激安ブランドと大差ない値段の液晶テレビを発売したのだ。
廉価版機種を作っているのは台湾のOEMメーカー。製造の外部委託でコストを削り、かつ通常の機種よりも自社や小売り側のマージンを低めに設定し、今回の価格を実現した。普通であれば、米国の流通業者は低いマージンの商品に見向きもしない。だが、「ソニーブランド」が威力を発揮して、ウォルマートやベストバイをはじめとする全米の大手ナショナルチェーンが続々と導入を決めている。
強気の販売拡大計画
激安の液晶テレビ発売に踏み切ったのは、価格重視の消費者も取り込み、北米市場で一気に寡占状態を形成するためだ。北米では薄型テレビの普及が平均的な所得水準のミドル層へと急速に広がり、財布の中身が限られる消費者は、ウォルマートなどディスカウンターの店頭に並ぶ激安ブランドの製品を買い求めている。ソニーはこれまで手薄だったディスカウンターにも今回の廉価版機種を戦略的に供給し、他の大手メーカーのみならず、激安ブランドからも根こそぎシェアを奪い取る作戦だ。北米だけでなく、6月からは欧州でも売れ筋の30インチ台で低価格機種を投入するとみられている。
4月のディスプレー展示会の講演で、ソニーの吉岡浩テレビ事業本部長は「薄型テレビのセットメーカーとして生き残るには、つねに上位のポジションに居続ける必要がある。そのためにも、圧倒的なビジネスボリュームを取りにいく」と宣言。同社が2008年度に狙う薄型テレビの世界販売台数は、前年度実績から実に約8割増となる1800万台。市場全体の成長率が3割程度と予測される中では、相当に強気な計画だ。
激安機種を投入してまで、ソニーが販売数量拡大へ走るのには理由がある。ドル箱のデジカメなどを牽引役に足元の業績は急激な回復を見せているが、テレビ事業はいまだ赤字。基幹部品のパネルは実質的に外部調達に依存しており、製造段階でのコスト削減にはおのずと限界がある。
となれば、テレビ事業の早期黒字化には数量拡大による増収効果が絶対条件だ。しかも、世界首位を争う最大のライバル、韓国・サムスン電子は今年度に液晶・プラズマ合計で2000万台の大台突破を狙っており、ここで引き離されるわけにはいかない。
こうした拡大戦略が業界に大きな影響を及ぼすのは必至だ。現在、北米ではソニーの新製品に対抗して他の大手メーカーも大幅な値下げを検討しており、価格競争は一挙に過熱するだろう。もっとも、仕掛ける側のソニーにもリスクがある。廉価版で期待したほど他社からシェアを奪えず、自社の高単価商品と食い合えば、自分の首を絞めることにもなりかねない。
シナリオどおり寡占状態を築けるのか。今年の薄型テレビ市場でソニーが台風の目になることは間違いない。
(渡辺清治 =週刊東洋経済)
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