したがって、労働者を残留へ動員することは、もともと困難だったと思われる。しかし、ここで、労働党のリーダーシップの問題に触れざるを得ない。というのも、同党のコービン党首は、党内最左派に位置し、草の根の活動家に近く、もともとEUに対して懐疑的で、ブレアのような「第3の道」に対する違和感が強い。その彼は、国民投票に向けて、労働党支持層へのEU支持呼びかけに力を尽くさなかった。彼自身、「7割方の力しか入らない」と漏らしていたのである。
彼のEUに対する半ば公然の懐疑は、労働党の草の根支持層である末端労働者が持つEUへの違和感を反映したものである一方、残留に向けた保守党との共闘で労働党が埋没しないことを意図した党利党略でもあった。
労働党は利敵行為を避け、残留に本腰を入れず
その背景は、2014年に行われたスコットランド住民投票にある。そこでは、労働党はキャメロン保守党政権と共闘し、連合王国の維持、すなわち独立阻止に向けてキャンペーンを張った。その結果、かつて一強の様相を見せていたスコットランドで労働党はほぼ駆逐され、2015年の総選挙ではスコットランド国民党(SNP)はおろか、保守党にも負けて第3党になり下がったのである。
その「二の舞」を避けるため、コービンはキャメロン首相とのツーショットを徹底して避けた。それが実現したのは、6月16日に残留にむけて尽力していた労働党のジョアンナ・コックス議員が暗殺された直後、一緒に花を手向けたときだけである。
こうして、労働党の選挙キャンペーンは、本腰からは程遠いものであった。同党のジェイミー・リード議員の発言を借りれば、「労働党指導層はこのキャンペーンに必要な露出、資源、エネルギーを提供しなかった。さらにひどいのは、入念に計算された形でよそよそしい印象を与えたことだ。(中略)その直接の結果として、余りに多くの労働党支持者が手遅れになるほど遅い段階まで、労働党がじっさいにはEU加盟を支持していることを知らなかったのである。」コービンとその取り巻きにとって、最大の敵は国内の保守党であり、緊縮財政を推し進めたキャメロン首相とオズボーン財務相だったのである。
結果として、キャメロンが辞任を表明し、オズボーンの信頼は地に落ちた。党利党略的には労働党指導部は欲しいものを得たわけだが、草の根の支持者にEUのメリットを正面から説かなかった代償は大きい。ただし、その当のコービン党首も、影の内閣閣僚を含む同党議員から不信任動議を突き付けられており、党首職にあり続けるかどうかあやしい。
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