誰がどう投票したのだろうか。地域的には、スコットランドと北アイルランドはそれぞれ62%、55.8%が残留を求め、イングランドとウェールズの過半(各々53.4、52.5%)は離脱に投じた。
特にイングランドとスコットランドの投票がねじれ、前者が離脱を、後者が残留を選んだことは、今後を占ううえで重要である。
全有権者の8割以上を占めるイングランドの動向がカギを握っていたが、北東部、東西ミッドランズ、ヨークシャー、ハンバー、東部などで離脱派が残留派を引き離した。なお、ロンドンではおおむね6対4で残留に投じたが、他の地域は全体として離脱を選び、ロンドンを抑える形となった。
社会的には、アッシュクロフト卿の投票後の調査(英語)が役に立つ。それによると、男女の間では投票行動に違いはなかったものの、年齢では大きな差が出た。18-24歳の有権者の73%、25-34歳の62%が残留に投じた一方、55―64才の57%、65才以降の6割が離脱を選んだ。
また、学歴や階層でも異なる投票行動が観察された。オックスフォードやケンブリッジでは7割以上が残留に入れたのに対し、ボストンやハヴァリングなど低学歴の住民が多い地域では7割前後が離脱を求めた。収入の比較的高い中流上層以上は57%が残留、労働者階級と低所得者層の64%が離脱に入れた。
さらに党派別では、保守党支持者の58%が離脱、労働党支持者の63%が残留に票を投じた。親EUの自民党では70%が残留、逆に反EUの英国独立党(Ukip)では96%までもが離脱を支持した。
最後に、投票で最も重視した要因としては、離脱派は、第1に主権や自決、第2に移民制限、第3にEUをめぐる選択不能性を重んじた。残留派は第1に離脱時の経済や雇用への悪影響、第2に(シェンゲン・ユーロ不参加のまま)EU市場にアクセスできること、第3に離脱した時の孤立感を挙げている。
残留派の「恐怖計画」は国民にあまり刺さらず
短期・戦術的には、離脱時の経済的な損失を強調した残留派のいわゆる「恐怖計画(Project Fear)」は、結果的に言うとあまりアピールしなかった。
財務相オズボーンは、4月に英国経済は2030年までに残留時と比べて6%低下し、各家庭レベルでは年4300ポンド(約65万円)の損失になるとしていた。逆に、移民要因を強調した離脱派の方が効果的だった。
移民排斥の色彩が濃厚な英国独立党の党首ファラージュはもちろん、元ロンドン市長ボリス・ジョンソンや法相マイケル・ゴーヴも、ことあるごとに移民を取り上げ、オーストラリアのようなポイント制にすることで望ましい方向に移民を制限できると強調した。
その点、投票直前の5月末に移民統計が発表され、2015年1年間で約33万人の移民の純増が報告されたことは、離脱派にとって「ブースト」(押し上げ材料)となった。キャメロン政権は、「純増を10万人にとどめる」と公約していたからである。
こうした状況のもと、「YouGov調査」でEU離脱時の移民の増減について聞かれた53%が「減る」と答えたのに対して、「増える」としたのは3%で大きくその差が開いた一方、「Opinium調査」では、「経済悪化」を予測する人は37%で、「改善する」とした29%と競っていた。移民カードの方が、恐怖計画よりもパンチが効いていたと推測できる。
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