さらに、離脱派に加勢したのは、タブロイドと言われる労働者階級に人気の大衆紙だ。「Sun」「Daily Mail」などといった人気のタブロイド紙が、離脱支持を宣言、毎日のように、センセーショナルな見出しでEU批判を繰り広げた。
「移民が来るぞ~、移民が来るぞ~」であるとか、「独立の日。さあ、主権を取り戻すのだ」といった大見出しが連日、紙面に踊った。失った栄光を取り戻すチャンスであるかのようにあおり立て、「大英帝国民」のプライドをくすぐる。このように人々の恐怖心に訴求し、プライドを掻き立てる手法はドナルド・トランプが多用するレトリックでもある。
いいね!の数でも大差
ソーシャルメディアも圧倒的に離脱支持派の主張で埋め尽くされていた。ニューヨークタイムズの調べでは、過去6カ月、フェイスブックなどのソーシャル・メディア・サイト上での「残留派」の「いいね!」やシェア、コメントは330万だったのに対し、「離脱派」は1100万と圧倒的な差をつけていた。
想像できない恐怖と想像できる恐怖。結局のところ、両派の争いは、人々の想像力をいかにかき立てられるかという戦いですでに勝負がついていた。残留派がどのように強固な「ファクト」を並べ、離脱派の詭弁を打ち破ろうとしてもそれはかなわなかった。あのタクシーの運転手のような人たちが、連日連夜、行きつけのパブに集い、語りあう「ストーリー」の伝播力と脳に焼き付くような強烈な「イメージ」の鮮烈さをしのぐことはできなかった。つまり、どんな「ファクト」も「ストーリー」や「イメージ」には勝てないということなのだ。
今回の論争を通じて、経済的不平等の拡大、高齢者対若年層の考え方の対立、地方と都市との格差の広がり、グローバリゼーション派と反グローバリゼーション派の衝突、エリートや権威への反感など、アメリカ、イギリス、日本、そして世界の多くの国に、驚くほど似たような構造的問題が存在していることがより明白になった。
折しも、時は参院選。ひたすら名前を連呼し、わかりにくく、生ぬるい政策論争をしている候補者の姿を見るにつれ、欧米政界の戦略的で、また激烈な舌戦との間に彼我の差を感じる。彼らが大した策も弄さず、「コミュ貧」でいるうちは、日本はまだまだ平和、ということなのかもしれないが……。
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